“素材売り”から“総合力”へ 素材メーカーが「未来の車」に参入

 【経済インサイド】

 自動車業界は「100年に1度」といわれる大変革期を迎え、車の電動化や自動運転化の流れが止まらない。こうした変革を商機に変えようと大手素材メーカー各社は、未来の「モビリティー(移動)社会」を見据えながら、素材や加工技術などをセットで提案する“総合力”を磨き始めた。単なる“素材売り”から脱却する狙いは何か。素材各社の戦略に迫った。

 未来の車内空間

 横浜市西区のパシフィコ横浜。5月22日に自動車技術が一堂に集まる「人とくるまのテクノロジー展」が開幕した。会場を歩くと、映画に登場する宇宙船のような乗り物が目に飛び込んできた。出展社は自動車メーカーではない。旭化成だ。

 同社が展示したのは、未来の車内空間を実現した卵形の模型「AKXY POD(アクシーポッド)」。ハンドルもアクセルもない完全自動運転車をイメージしながら、乗員が五感で快適さを感じられる空間を目指したという。実際に木製のドアを開けて座席に座ると、視線の先に走行状況を映し出すディスプレーがあった。天井には、神秘的な映像が投影されていた。

 模型には、特定の人に音を届ける指向性スピーカーや樹脂製の人工芝、センサーなどの製品や技術が散りばめられていた。同社オートモーティブ事業推進室の宇高道尊(みちたか)室長は「自動車メーカーや部品メーカーと、車の未来を語るきっかけを作りたかった」と説明した。

 帝人のブースでも、未来を感じさせる流麗なデザインの乗り物が存在感を放っていた。豪スタートアップ企業のAEVが開発した低速の電気自動車(EV)で、国内で初めて公開した。

 EVは、駆動部と交換可能なボディーで構成されることが特徴。ボディーを交換することで、食品を積んで街中を巡回する車や医療サービスの専用車など多彩な用途で活用できる。

 車両の窓は、帝人が開発した高機能素材「ポリカーボネート(PC)樹脂」製だ。この窓はガラス窓との比較で衝撃に強いうえ、3割程度軽いという。既に同社は、京都大学発EVベンチャーのGLM(京都市)が手がけるスポーツカーの「フロントウインドー(前の窓)」にPC樹脂を採用した実績も持つ。

 帝人モビリティ部門の帆高寿昌部門長は「(新興企業との連携を通じて)移動社会の進化を肌で感じながら、素材や部品の先行開発を進め、大手自動車メーカーにスムーズに提案していきたい」と意気込む。

 三菱ケミカルホールディングスも、素材の提案力をアピールした。一つは、直径が髪の毛の2分の1以下という“超極細”のアクリル繊維「XAI(サイ)」だ。

 サイは既存の防音材に混ぜることで、車の走行時に発生する路面とタイヤの摩擦による騒音「ロードノイズ」などに対して高い吸音性能を発揮。防音材の軽量化にも役立つという。EVの普及に向けて鍵を握る車体軽量化やロードノイズの吸音といったニーズを取り込み、来年以降に自動車メーカーなどに納入することを目指す考えだ。

 鉄鋼大手も手をこまねいているわけではない。鉄を随所に用いたコンセプトカーを展示した日本製鉄自動車材料企画室の担当者は、「製造コストと信頼性の面で車業界での鉄の優位性は揺るぎない」と強調。素材に設計・加工の仕方を組み合わた提案力を磨いて、激化する素材間競争を勝ち抜くことに意欲を示した。

 新たな需要を発掘

 各社が狙うのは、未来の移動社会が素材業界にもたらす需要だ。旭化成は自動車関連事業で、平成28年3月期に車載向け電池用部材を除き約1000億円を売り上げた。アクシーポッドなどの提案活動を通じて需要を開拓し、10年後には3倍の約3000億円に引き上げたい考えだ。

 クラレも自動車関連事業で攻勢をかける。なかでも耐熱性が高く成型加工しやすいポリアミド樹脂「ジェネスタ」は、車載用の電子機器やギア(歯車)を小型化できる素材などとして需要が拡大すると予測。令和3(2021)年末までにタイで新工場を完工し、倍増の年2万6000トン体制を整える。

 素材各社の戦略から透けてみえるのは、「次代に車の構造が変わった際に素材をどう使うのか」を総合的に提案できるメーカーに脱皮したいという思惑だ。従来の自動車メーカーとの関係は、素材の仕様が決まった段階で声がかかる「一方通行」が多かった。

 既に素材業界では、自動車メーカーとの距離を縮める動きが活発化。帝人は、平成29年に北米最大の自動車向け複合材料メーカーを買収するなど、複合材分野で相次ぎ企業買収に踏み切り、自動車メーカーの「1次取引先」としての立場を強化してきている。

 ただ、素材各社がまいた種から成長の芽を育て、収穫するのは至難の業だ。車業界の変革の方向性が定まっていないからだ。クラレのマーケティング担当者は「自動運転がどの時点でどこまで実現するかも、車のシェアリング(共有)がどこまで広がるかも読みづらい」と、次世代市場を攻略する難しさを説く。

 自動車業界に詳しいKPMGモビリティ研究所(東京都千代田区)の井口耕一パートナーは「産学官の連携や協業を通じて大変革期の潜在ニーズをいち早く見極め、自社の強みを生かした製品やサービスを素早く収益化に結びつける対応力が一段と求められる」と課題を投げかける。(経済本部 臼井慎太郎)

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