主治医はスマホ…過疎地救う遠隔医療 「5G」でリアルタイム診断

 【ビジネスの裏側】

 スマートフォンなどの通信速度が飛躍的にアップする次世代高速通信規格「第5世代移動通信システム(5G)」の実用化に向けて、関西の企業や自治体が動き始めた。従来のスマホより通信速度が100倍も速くなる5Gは、過疎地と大病院とをつないだ動画診察を普及させたり、自動運転のトラクターを使った遠隔操作での農作業を可能にしたりできる。人口減少と人手不足に悩む地方での5Gの活用が、先行して始まりそうだ。(黒川信雄)

 過疎地救う遠隔医療

 1時間の動画を2秒もかからず、ダウンロードが可能になる5G。現在の「4G」のスマホの100倍速い、最大毎秒10ギガビットで通信情報をやりとりできる。「高速大容量化」に加えて、膨大な数の端末に接続できる「多数同時接続性」、時間のずれが少ない「低遅延性」が向上するのが特徴だ。

 和歌山県の中核病院を併設する和歌山県立医科大学(和歌山市)。今年1月、NTTドコモは同大学の地域医療支援センターから約40キロ離れた日高川町の診療所とを5Gでつないだ遠隔診療の実証実験を行った。

 同町の65歳以上の人口は全体の約35・2%と高く、遠くの医療機関に足を運ぶのが難しくなる高齢者が増えることが懸念される。5Gを使えば、これまでの遠隔医療では困難だった大容量の高精細映像の送受信が容易になる。

 実験では同町の医師が心疾患の80代患者のエコー映像を5G端末機を通じて送信した。和歌山県立医大の専門医が、高精細の画像をほぼリアルタイムで診断し、指導をした。「この品質なら十分に治療に活用できる」と、医大の医師は画像の鮮明さに驚いた。

 医師不足や過疎化が深刻化するなか、和歌山県側が5Gを活用した遠隔治療実験をドコモに働きかけた。2020年以降に導入をしたい考えだ。

 無線で工場機器制御

 総務省は今年4月、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天の4社に5Gの電波を割り当てることを決めた。本格的な商用化は令和(れいわ)2(2020)年以降になる。5Gを普及させるには、基地局となるインフラを現在のスマホに使われる4G以上に高密度に設置する必要がある。5Gの利用環境を地方に整備するには時間がかかる可能性がある。

 そこで、「ローカル5G」と呼ばれる通信網の技術に注目が集まっている。

 学校や工場、商業施設などに限定して5Gの無線電波を飛ばす発想で、すでに対象地域まで敷設済みの光ファイバー網を活用し、現場で無線電波を飛ばして5G環境を構築することも可能だ。総務省が今秋にも電波割り当てを予定しており、複数の関西企業が参入の意向だ。

 関西電力子会社で、情報システム開発を手掛ける「オプテージ」(大阪市)が描くのは、工場内の生産設備をはじめ、あらゆる機器をローカル5Gで結ぶ「スマートファクトリー」の建設だ。組み立てロボットや生産ラインなどを有線ケーブルではなく、無線で制御する。これにより、配線を組み替えるなどの手間が省けるため、生産設備のレイアウトを変更しやすくなる。インターネットで収集した情報を分析すれば、生産方法の最適な改善ができる。

 「5Gで産業に革命を起こしたい」と話す同社の南部亮志担当部長。主力事業の光回線事業が、5Gに「取って代わられる」(南部氏)との警戒感もあり、現行インフラと5Gの融合を模索する。

 小規模な自治体では、街全体を5Gで接続する「スマートシティ」などの建設構想もある。

 農業の省力化に期待

 携帯電話事業者向けの5Gでは、免許の取得は全国での事業展開などが条件になるが、ローカル5Gはエリアに限って免許が付与されるため、対象地域で独占的に周波数帯域を利用できる。情報通信会社だけでなく、メーカーや自治体でも取得がしやすい。

 パナソニックは、農業分野に実証実験を広げる。同社はこれまで、無人のトラクターから撮影された映像を4Gで配信し、確認するなどの実験を行ってきた。今後、通信環境を5Gに置き換え、農業を効率化させる青写真を描く。

 ローカル5Gの導入には日本とドイツが積極的で、ネット網に侵入したハッカーによる情報漏洩(ろうえい)や業務妨害のリスクにも強いとされる。

 異業種タッグ不可欠

 5Gは、高速通信環境を活用し、いかに革新的な産業技術や実用サービスを生み出せるかが勝負になる。それには企業の枠を超えた連帯が不可欠だ。

 ドコモは昨年5月、大阪府と5G開発などをめぐる連携協定を締結した。9月には大阪市中心部に、企業が5G対応機器やサービス開発に利用できる「5Gオープンラボ」を開設した。ドコモは現在、5G開発をめぐる連携を企業に働きかけており、これまで関西の約400社が「パートナー」になったという。

 ドコモの高原幸一関西支社長は、「関西企業は5Gを活用したソリューションをアジアに輸出するなどの展開ができるはず」と期待する。

 米国と中国が安全保障上の戦略を念頭に置き、5Gシステムの開発を推し進めている一方、日本では高齢化や生産性の低下などの課題を解決する手段として、技術の応用展開を目指す方向にある。

 3米中が覇権争い

 5Gの開発をめぐっては米国と中国が主導権争いを繰り広げている。トランプ米大統領は今月15日、米企業に対し、安全保障上の脅威があると認める通信機器の使用を禁じる大統領令に署名。5G技術で優位にある中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の経営に打撃が及ぶ可能性がある。中国商務省は、米政権の動きを「不合理な規制」と強く反発した。

 米政府は華為などが、中国人民解放軍や中国共産党と連携し、通信機器を介して重要情報を盗んでいると疑っている。あらゆるものがインターネットにつながる5G環境で中国製品が圧倒的シェアを握れば、スパイ行為を防ぐことはさらに困難になる。米政府の方針にそって、日本企業でも華為との取引を中止する動きが出ている。

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