まるで「オフィス難民」…訪日客増、人手不足で物件需給が逼迫

 【ビジネスの裏側】

 大阪市中心部で深刻なオフィス不足が起きている。事務所などに使う部屋の平均空室率は昨年7月に2%台と、バブル期に次ぐ水準に突入した。人手不足の影響で、利便性の高い都心部にある物件に人気が集中。一方で、訪日外国人客の増加でオフィスビルがホテルに変わるなど供給を圧迫している。今後、2025年開催の大阪・関西万博など投資を呼び込む要素もあるためだ。家賃は高止まりし、物件探しに苦心する企業は少なくない。(藤谷茂樹)

 物件探しに、まる1年

 「知り合いが借りているオフィスに、ちょうど空きがあって移転できた」。システム開発「大化物流開発合同会社」代表社員の入江徹さん(50)は疲れた表情を浮かべながらも、ほっとした様子だった。

 4月22日、自社のオフィスを大阪市住之江区のベイエリア・南港から、大阪市中心部のオフィス街にある大阪メトロ堺筋本町駅近くに移転したが、物件を見つけるのに1年かかった。

 当初は、広さ250平方メートルほどを希望し、ビルのエントランスの見栄えにもこだわっていた。

 だが、オフィス探しは難航した。条件を満たす物件を見つけて入居を申し込んだものの、2カ所で断られた。「ビルのオーナーが有名企業の入居を望んで、強気になっている」(入江さん)という。

 3月末の賃貸契約の期限が迫るなか、知人の紹介でたどり着いた物件は、約200平方メートルと希望を満たせなかった。入江さんは「狭いのは覚悟した。理想にかなわず、『やれやれ』という思い」と話した。

 オフィス仲介の三鬼商事によると、3月の大阪市内の平均空室率は前月より0・26ポイント低下し、2・45%となった。100件の部屋のうち、2、3室しか空室がないという計算だ。空室率は、昨年11月から5カ月連続で低下し、1%台だったバブル末期の平成3年ごろに近づきつつある。物件探しが長期化し、「オフィス難民」の様相を呈する企業が増える可能性がある。

 オフィスビルはホテルに

 オフィス不足には、さまざまな要因がからみあう。

 一つは関西での外国人旅行者の増加だ。大阪の外国人旅行客は7年連続で増加し、昨年は1141万6千人。それに伴って宿泊ニーズが高まり、ホテルの開業が相次いでいる。

 28年3月にオープンした大阪市中央区の「からくさホテル大阪心斎橋I」は、オフィスビルからのコンバージョン(用途変更・転用)だ。

 運営会社の「からくさホテルズ」(東京)は、「更地から新築すれば通常14カ月かかるが、転用で建設期間を8カ月に短縮できた」と説明する。京都と合わせて自社ブランド第1号となる進出で、早期開業を目指したという。

 29年開業の「モクシー大阪本町」(大阪市中央区)、昨年開業の「オークウッドホテル&アパートメンツ新大阪」(同市淀川区)もオフィスビルからの転用だ。

 「最近では、土地オーナーが収益性の高いホテルを建設しようとする傾向が強い」(マンション業界関係者)ため、都市中心部では宿泊施設の増加に拍車がかかり、オフィス供給が細る構造が生まれている。

 大手が都心回帰、人材確保で

 そこに追い打ちをかけるのが企業の都心回帰の動きだ。通勤に便利な交通の結節点にオフィスを設け、人材確保につなげたいとの思惑がある。

 昨年10月に開業した複合ビル「なんばスカイオ」(大阪市中央区)のオフィスフロア。南海線、大阪メトロ、JR、近鉄線、阪神線と複数の鉄道を利用しやすい場所で、多くの大手企業が事務所を構えた。

 丸一鋼管は大阪市西区から、ボウリング場などを展開するラウンドワンは堺市堺区から、ここに本社を移した。工場や取引先への交通の便がよく、立地が採用活動でも有利になるとみている。

 投資活発、家賃は高騰

 昨年10月、不動産関係者を驚かせた物件取引があった。大阪・梅田に近いオフィスビル「御堂筋フロントタワー」(大阪市北区)を米不動産「ラサール・インベストメント・マネージメント」が買い取った。米シェアオフィス大手「ウィーワーク」が1棟借りで入居し、6月に開業予定だ。

 このビルは、リーマン・ショックによる景気後退のあおりで、資金調達などをめぐってトラブルが起き、建物完成後も長年、工事の囲いが取り外されず、開業できていなかった。それに外資系から買い手が付くほど需要が強まっていると受け止められたのだ。

 オフィス不足とともに、家賃は高騰している。

 大阪市内の複数の不動産業者によると、梅田のオフィス相場は数年前まで1坪(約3・3平方メートル)1万5千円ほどだったが、今年は2万円台に上昇したという。難波も1坪8千~1万2千円の相場が1万5千円まで上がっている。

 家賃上昇は、オフィスビルの収益力を引き上げる。

 不動産サービス大手、ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)関西支社キャピタルマーケット事業部の秋山祐子ディレクターは「外資の大型取得はオフィスビルに移行している」と指摘する。

 大阪の賃料は上昇しているが、香港や英ロンドン、米ニューヨークなど世界の大都市と比べれば相対的に安い。リーマン・ショック前の価格水準を「100」とした場合にはまだ「84」と伸びしろを残す。「海外のファンドは世界規模で投資先を探している」(秋山氏)という中、投資熱は冷めそうにない。

 大阪市中心部では来年以降、大型の複合ビルの完成が相次ぎ、都心部への集中を一段と促す可能性がある。

 来年1月には、大阪市内を南北につなぐ大阪メトロ御堂筋沿いに「オービック御堂筋ビル」(同市中央区)が完成。令和4(2022)年春には阪神百貨店梅田本店の建て替えに伴う「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」(同市北区)、同年10月には「日本生命淀屋橋ビル」(同市中央区)が完成する。

 さらに5年度内に大阪中央郵便局跡地に複合ビルが建てられ、翌6年にはJR大阪駅北側の再開発地区「うめきた2期」のまち開きを控える。

 大型ビルの建設で、オフィスの需給逼迫はいったんは緩和しそうだが、不動産サービス大手「CBRE」などは、都心部の物件への人気を背景に、賃料の高止まりは続くと予測している。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ