小さなIT大国エストニアに熱視線 スカイプ発祥、丸紅は拠点づくり

 【経済インサイド】

 バルト海に面した人口わずか130万人の小国エストニアに日本企業が熱視線を送る。最先端のデジタル技術を経営に取り入れる動きが加速する中で、ニッチだが、エストニアは技術やベンチャーを後押しするお国柄もあり、脚光を浴びる。丸紅は4月に首都タリンに先進技術の情報収集拠点として出張所を新設。国際協力銀行(JBIC)も日本メーカーやエストニアのベンチャーファンドと先進技術の投資ファンドを立ち上げた。

 旧ソ連時代の名残

 エストニアは、1991年のソ連崩壊前は連邦内で情報通信を分担していた経緯があり、サイバーセキュリティーや暗号技術に強い人材も多い。また、過去にロシアからとみられる大規模なサイバー攻撃を受けたことから、セキュリティー技術育成は国を防衛する国家プロジェクトだ。

 また、北大西洋条約機構(NATO)のサイバー防衛協力センターもタリンに誘致した。日本政府も着目し、今年3月から防衛研究所の職員を派遣して技術交流も始めた。

 こうしたなか、丸紅はデジタル技術発掘の拠点として米シリコンバレーや中国・深センなど既存4カ所に続き、タリン出張所を開設した。仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーン技術を国をあげて活用する、電子政府などの取り組みにも注目。ベンチャーらとの協業を通じて新たなビジネスモデルにつなげたり、既存事業との相乗効果を狙っている。

 JBICは今年1月、JBICグループとして組成するファンドを通じてITベンチャーに投資するファンド(約130億円)を設立した。

 ファンドにはホンダ、オムロン、パナソニックも出資している。JBICは「エストニアやその周辺諸国は日本企業がそれほど進出していないが、技術的に有望なベンチャーが多く、仲介を支援する意義がある」と話す。

 同ファンドは人工知能(AI)やサイバーセキュリティー、モノのインターネット(IoT)など幅広い分野50社程度に投資する計画で、その中から企業が具体的な協業相手を絞り込むイメージだ。

 スカイプ発のベンチャー続々

 ブームに沸くエストニアだが、この国に早くから根を張るのはベンチャー企業だ。同国では、ベンチャー投資や起業家育成を手がけるMistletoe(ミスルトウ)の孫泰蔵社長(ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の実弟)が現地の技術ベンチャーに投資し、存在感を示してきた。

 なかでも有名なのは、無料通話ソフトの先駆けのスカイプだ。米マイクロソフトによる買収後も「スカイプマフィア」と呼ばれる、スカイプ出身者が、次のベンチャーを育てるという好循環が生まれている。タクシー配車アプリのタクシファイやデリバリーロボットの自動配送サービスのスターシップ・テクノロジーズもスカイプ発ベンチャーだ。

 三井物産が2017年に出資した国際送金システムを手掛ける英トランスファーワイズ(ロンドン)もそのひとつ。「スカイプ」の立ち上げメンバー(ターベット・ヒンリクス氏)らが、英国から母国のエストニアへの国際送金をする際のコスト高に不満を抱き、事業化したサービスだ。

 周辺国にも商機

 海外の企業や投資家のエストニアへの関心は高まる一方だ。電子政府などの取り組みを海外投資家や起業関係者にPRするスペース「e-エストニア」(タリン)には世界中から訪問が相次ぐが、訪問者数は日本が最多という。最近は予約がとれないこともあるほどで、日本企業のエストニア詣でが活発化している。

 注目されるのは、エストニアだけではない。日本貿易振興機構(ジェトロ)は「同じバルト3国のひとつ、リトアニアも近年はブロックチェーンなどの新技術の実験場として注目され、フィンランドもこの10年で変貌した」という。フィンランドは名門だったノキアが米国企業に買収されたのを機に、情報通信技術(ICT)国家に向け巻き返しを図った。スウェーデンも首都ストックホルムを音楽配信のスポティファイをはじめ、ベンチャー集積地にしたい考え。

 ジェトロは今秋にも、エストニアなどバルトや北欧のベンチャーと協業したい企業を集め、現地でのマッチングイベントの開催を計画する。バルト3国や北欧の一部の国は、国内市場が小さいだけに立ち上げ時から海外展開に意欲的なため、日本企業も商機を見いだせそうだ。(経済本部 上原すみ子)

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