経営資源とアイデア組み合わせ…「オープンイノベーション」 ベンチャー主導で迅速化

【経済インサイド】

 デジタル化の急速な波が押し寄せる中、大企業の経営資源とベンチャーのアイデアを組み合わせて事業を生み出す「オープンイノベーション」が加速している。パナソニックは米ベンチャーキャピタル(VC)と、三井化学はバイオベンチャーと新会社を立ち上げた。両社はいずれもベンチャー側が主導権を握っているのが特徴だが、果たしてどんな化学反応が起きるのかが注目される。

 ■2カ月半で試作機作成

 パナソニックの家電事業の社内カンパニーのアプライアンス社と米シリコンバレーを拠点とするスクラムベンチャーズは、今年3月「BeeEdge」(ビーエッジ、東京都港区)を設立した。同社はパナソニックで事業化できなかったアイデアを改めて審査し、外部の発想を取り入れて実現しようというものだ。

 ビーエッジ社長には住友銀行(現・三井住友銀行)から、創業間もなかったIT大手のディー・エヌ・エー(DeNA)に転じ、会長も務めた春田真氏が就任。スクラム側が主導権を持ち、迅速な意思決定による経営が特徴だ。

 第1弾として、ミツバチプロダクツ(東京都港区)を設立し、パナソニックが保有するスチーム技術に着想を得た、チョコレートドリンクマシンを来年春、カフェなどに売り込む考えだ。

 この事業はミツバチプロダクツの社長に就任した浦はつみ氏が、かつてパナソニック社内で新事業提案したが、市場規模が小さいとの理由でお蔵入りした経緯がある。だが、「健康志向もあり、飲むチョコレートで豊かな食文化を演出したい」との浦氏の熱意が春田氏の目にとまった。

 カフェに置くには、デザインは最優先。浦社長が、自ら米大手IT企業でプロダクトデザインエンジニアの経験もあるダグラス・ウェバー氏らを口説き落とし、具体的に動き出してから、わずか2カ月半という短期間で試作機の作成にこぎつけた。ちなみに大企業の宿命もあり、パナソニックではデザイナーとの契約手続きだけでも時間がかかり、社内のこの種のケースでは1年程度かかるのが一般的だったという。

 浦氏をはじめ新会社の社長になる人は、パナソニックを休職し給料も自分で決める仕組み。退路を断ち、移籍する手もあるが、「休職」ならば、家族の同意も得やすいと、春田氏がパナソニックにかけあい、挑戦しやすい環境をつくった。チャレンジを経験した人材がパナソニックに帰り、新たなチャレンジを行うことで、企業風土の改革につなげたい狙いもある。

 春田氏は「日本は技術や研究をバックにした優秀人材やアイデアが大企業の中に閉じこめられたままになっている」との長年の思いを、シリコンバレーで面接したアプライアンス社の本間哲朗社長にぶつけ、意気投合し、その後、スクラムが51%、パナソニック49%を出資して合弁会社を設立するに至った。

 さらに11月に、官民ファンド、産業革新投資機構傘下のINCJ(東京都千代田区)がビーエッジへの出資を決めた。INCJではビーエッジが成功すれば他の大手電機メーカーでも同様の試みをして、埋もれる技術の事業化につなげたい考えだ。

 日本では起業を含めた開業率は5・6%にとどまり、軒並み10%を超える欧米に比べて低い水準だ。それだけに大企業の意識改革を促す、今回の取り組みは「現実的」と期待する向きもある。

 ■まずは社会に問う

 三井化学もバイオベンチャーの「ちとせバイオエボリューション」(シンガポール)と共同で、事業化と人材も育成するオーブンイノベーションに乗り出したと、10月に発表した。

 三井化学が持つ植物細胞培養技術を事業化する「植物ルネサンス」と、ちとせグループの微生物の働きを農作物栽培に応用し、野菜の味や香りを豊かにする技術を事業化する「ティエラポニカ」をそれぞれ、ちとせグループの全額出資子会社として設立した。

 すでに、両社には、三井化学から秀崎友則氏と有富グレディ氏がそれぞれ社長として出向している。

 ちとせバイオエボリューションの藤田朋宏・最高経営責任者(CEO)は「大企業の合意形成のプロセスから離れ、まずは『こういう社会を作りたい』という個人の意志を社会にぶつける作業が必要だ」と強調する。

 三井化学の福田伸・常務執行役員研究開発本部長は、協業の狙いを「研究開発をしてから顧客開拓する従来の方法ではなく、顧客のニーズという目線やスピード感を身につけ事業化を目指す」と意気込む。その一方、社長の2人は出向扱いで、「仮に事業化が難しい場合には、会社に戻れる」仕組みとした。

 これまで、多くの大企業には社内ベンチャーの仕組みはあったが、事業化に至らないケースが多かった。今回のような試みが広がるかは、大企業が失敗を恐れない企業文化や評価制度を作り、スピード経営に舵を切られるかが鍵になりそうだ。(経済本部 上原すみ子)

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