【話の肖像画】龍谷大学教授・李相哲(61)洗練された「北」の映画に夢中

 ■洗練された「北」の映画に夢中

 《当時、中国の農村で花形職業だった映画技師。人々は中国共産党が作った映画より、「文化先進国」北朝鮮製の映画にロマンを感じ、夢中になった》

 北朝鮮の映画も中国の映画も体制を賛美するための宣伝材料でした。恋愛を描いていても、それは革命のために戦うなかで愛が芽生えてくるというストーリーです。でも北朝鮮の映画は非常に洗練された表現でした。

 タイトルは忘れましたが、鉛を作る工場に配属された男女がいて、2人はもともとは軍の部隊で知り合っていたのですが、工場で切磋琢磨(せっさたくま)して働いているうちに恋が芽生える。平壌を流れる川のほとりを散歩するシーンがあって、そこに植えられている柳の枝が2人を包むように揺れ、甘く切ないバイオリンのメロディーが流れる。女優も男優も本当に演技がうまかった。今でもあのシーンを思い出すと、胸が苦しくなるほどです。

 地主の搾取に苦しむ少女の運命を通して革命の必然性を訴える「花を売る乙女」という映画もありました。私が見たのはまだ中学生のときでしたが、感動のあまり、何日もろくに眠れなかったほどです。

 このころの映画は金正日(キム・ジョンイル)総書記が指導して作っていたものです。正日が朝鮮労働党宣伝扇動部文化芸術指導課長に就任したのは1967年。翌年に抗日パルチザン部隊の苦難を描いた「血の海」という作品に着手します。夫と子供を日本軍警に殺された母親が革命活動に目覚めるというストーリーです。

 正日は父である金日成(イルソン)主席や抗日パルチザンで戦った朝鮮労働党幹部の機嫌取りに一生懸命でした。派閥闘争を経て北朝鮮の体制が金日成「唯一体系」へと変わっていく節目の時期でした。正日には軍歴がなかったので軍の長老らからは軽視されていたのです。彼らを感動させ、自分への忠誠心を持たせるのが映画の目的でした。

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