【主張】気候変動サミット 倍加した脱炭素目標は重い

 ■いつまで原発から逃げるのか

 バイデン米大統領が盟主となり、世界の40カ国・地域の首脳に参加を呼び掛けたオンライン「気候変動サミット」が22、23の両日にわたって開かれた。

 地球温暖化防止を目指す「パリ協定」の目標実現に向けて、米国やカナダなどから2030年時点における温室効果ガス(大部分が二酸化炭素)の排出削減目標の引き上げや、排出を実質ゼロにする時期の前倒し計画が示された。

 菅義偉首相は46%(2013年度比)という日本の削減目標を提示した。従前の26%減でさえ困難視されていたのに、その2倍に近い目標値である。ものづくり日本を支える産業界には試練の季節の到来だ。

 ≪裏付け乏しい46%削減≫

 16日の菅氏とバイデン氏の会談で結ばれたパートナーシップを尊重するあまり、米国の50~52%減(2005年比)に近づけようとしたのなら、あまりに無謀、無分別ではないか。サミットを前に欧州連合(EU)は55%以上減、英国は35年までに78%減という目標値を打ち出していたが、ともに高い数値を算出できる1990年比の削減率なのだ。

 70年代から省エネに取り組んでいた日本は削減率の高低を気にすべきでなかったが、政権内には欧米に対する「見劣り」を嫌う意見があったというのは残念だ。

 11月には英国で国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開かれる。菅氏が示した46%削減は、パリ協定の30年目標を5年ごとに見直すルールに沿ってCOPで報告する国別削減目標(NDC)に他ならない。

 政府は今夏の次期「エネルギー基本計画」の改定後にCOP26に向けて、現行の26%への確実な上積みを行う計画だったが、バイデン政権による米国のパリ協定復帰で拙速を余儀なくされたのだ。

 脱炭素は世界の潮流となっているものの、二酸化炭素の排出削減は、国の経済や国民の暮らしと深く関わる重大な政策要件である。それがムードで決められたとすれば背筋が寒くなる。

 NDCは、削減策の内訳について妥当性が問われる。政府はしっかり説明できるのか。水素やアンモニアを燃料の一部にしても削減量は多くない。

 再生可能エネルギーでは洋上風力発電が有力視されているが、短期間での主力化は難しい。太陽光発電は、すでに立地で摩擦を起こしている。

 残された9年間で46%減に近づけるには福島事故以来、停止を続けている原発の再稼働以外に選択肢は見当たらない。しかし、政府から原子力の積極利用の声は聞こえてこない。政治はいつまで原子力発電から逃げ続けるつもりなのか。30年目標の大幅引き上げを機として、原発活用の検討に向き合ってもらいたい。

 ≪活路は高温ガス炉だ≫

 今回の気候変動サミットには、世界最多の二酸化炭素排出国である中国に削減の国際協調を促す目的もあった。習近平国家主席の参加を引き出したのは、成果のひとつである。

 習氏は「石炭の消費量を30年にかけて減じていく」と表明した。この発言は原発の大増設を意味している。30年には発電総量で米国を抜いて世界一の原発大国に躍進する見通しだ。

 中国の石炭火力発電は大気汚染の原因であるだけでなく、大量の石炭輸送が非効率なのだ。原子力への転換は脱炭素、脱汚染とともに豊富な安定電力で中国の経済力を一段と押し上げる。

 中国製原発の輸出にも余念がない。電気自動車や太陽光パネルの生産も伸長させている。脱炭素の気候変動対策は、世界の安全保障や覇権争いとも絡み合う。

 46%削減の表明で厳しい立場に身を置いた日本だが、実は世界をリードする切り札を持っている。日本原子力研究開発機構が開発した次世代原発・高温ガス炉の存在だ。小型モジュール炉(SMR)であるだけでなく原理上、炉心溶融事故は起き得ない。発電しながら水から水素を製造できる。

 国際的な評価が高く、今年の原産年次大会(日本原子力産業協会主催)でも海外の専門家から脱炭素のエネルギー源として期待の声が寄せられた。高温ガス炉は、50年時点の二酸化炭素の排出実質ゼロ(カーボンニュートラル=CN)と整合する。このイノベーションを発展させない手はない。

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