【話の肖像画】歌舞伎俳優・中村鴈治郎(62)(10)徳兵衛役、英公演で覚醒

 《大学時代に「曽根崎心中」で、祖父、二代目中村鴈治郎さんの徳兵衛の代役をしっかり勤めた鴈治郎さんだったが、父、坂田藤十郎さんは、自身の相手役に鴈治郎さんを使うことは当面なかった》

 父はそういう人なんです。芸が不足だと思うと、自分の息子でも相手役に使ってくれない。最初の頃は、顔が似ているから舞台で並ぶのはいやなのかなあと思っていました。でも違った。ただただ、自分の舞台の邪魔になる、相手役として不足だと思ったんじゃないでしょうか。

 代役で演じた徳兵衛は、とにかくやった、というだけで、みなさんが「よかった、よかった」と言ってくださった。でも、根本的にできていたわけではないんです。「曽根崎心中」自体、近松門左衛門の作ではありますが、戦後、宇野信夫先生が大胆に脚色して現代に合うように書いてくださった作品。ストレートプレー的な側面もあるんです。ですから、「曽根崎心中」だから初めてでもできたといえます。逆にいうと、それでいて歌舞伎にしなきゃいけないわけですから、実は難しい。私の場合も、あとからその難しさに直面したのです。

 祖父が亡くなったあと、祖父の一周忌追善や巡業などでは徳兵衛を勤めさせていただきましたが、その後しばらくの間、私を使うことはなく、父はいろいろな方(尾上菊五郎さん、中村梅玉(ばいぎょく)さん、十二代目市川團十郎さん)の徳兵衛でお初を演じています。

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