コロナ禍の世界 21世紀の岐路を、冷静に 編集局長・井口文彦

 疫病の怖さは毒性だけでなく、社会の共通基盤を壊し、時代を変えてしまう破壊力にあります。フランスの経済学者、ジャック・アタリ氏はパリの三井美奈特派員のインタビューにこう語っています。

 《疫病は社会のシステムを変える力を持っている。欧州大陸では疫病が猛威をふるう度、社会に根付いていた信仰や支配のシステムが信用を失い、古い支配者に代わり新たな権威が正当性を獲得した》

 《欧州では14世紀、ペストの流行で人口の3分の1が死にました。支配層だった宗教的権威=カトリック教会は人々の命を救えなかったばかりか、死の意味すら示せなかった。教会の権威は衰え、聖職者に代わって(強制隔離で感染を終息させた)警察が力を持つようになりました》

 《18世紀末には医師が警察にとって代わった。疫病が近代国家を生んだのだ。迷信や宗教的権威に対し、科学の精神が優位に立ったわけです》

 新型コロナ禍で、感染対策と経済の間で迷走する政治への失望が募っています。議論と合意、手続きを重視する民主主義の「決定の遅さ」への不満も。私権制限に躊躇(ちゅうちょ)ない強権国家の優位性を指摘する声すら聞かれるほどです。

 SNSで言論空間の分断はさらに激しくなりました。立場の異なる相手への態度は先鋭的です。民主主義の根幹とされるヴォルテール(18世紀の仏哲学者)の「私はあなたの意見には反対だ。しかしあなたがそれを主張する権利は守る」がむなしく響きます。コロナが民主主義を壊すのでは、と不安が募ります。

 コロナが世界を変えるにせよ、問題は「どう変わるか」です。21世紀の世界とシステムはどんな姿になるのか。それを探るため、私たちは連載「自由 強権~21世紀の分岐点」を開始しました。

 「戦争の世紀」だった20世紀。初頭の20年-日露戦争▽第一次世界大戦▽米国参戦▽ロシア革命・共産主義権力「ソビエト政権」の出現▽終戦・ベルサイユ体制-を経て、世界は「狂騒の20年代」と言われた1920年代に突入し、第二次大戦へ突き進みました。初頭20年で時代の方向は暗示されていたのです。

 21世紀も20年が過ぎました。2020年代に入った途端、コロナが世界中に襲いかかりました。21世紀がどんな時代となるか、この20年の分析から方向を探りたい。連載の狙いはそこです。

 コロナ禍でいかに世界が変わろうとも、産経新聞は、自由を保障する現在の民主主義を絶対に失ってはいけないと考えます。決して譲ってはならぬ生命線であり、その上で、より良き未来を拓(ひら)くための針路を考えたい。

 われわれの仲間たちはコロナ禍の中でも可能な限り現場を訪ね、取材しています。激しい分断に陥った米大統領選。米国駐在記者は「100万人」とSNSで拡散されたトランプ支持者のデモの現場に赴きました。参加者の多くがマスクをせず、記者は感染のリスクを恐れながらも話を聞き、メモをとり続けました。同僚と共に人数を数え、正確と思われる外電を参考にしながら「1万人程度」と報じました。

 彼だけでない。記者たちは皆、地道な取材を重ね、事実を集めています。新聞はSNSと異なり、確認できない事柄を推測で報じることは厳に戒めています。確認された情報の総合から全体像を描き、分析します。彼らの記事を今一度、温かい目で読んでほしいと切に願います。

 冷徹な分析と現実的な視点で世界の「今」をお伝えする産経新聞が、引き続き皆さまにとっての羅針盤となるよう、今年も編集局一同、努力してまいります。よろしくお願いいたします。

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