【主張】「アラブの春」10年 中東の厳しい現実直視を

 2010年12月、チュニジアで起きた露天商青年の焼身自殺を契機に、中東・北アフリカのアラブ諸国に反政府運動が広がった。いわゆる「アラブの春」である。

 会員制交流サイト(SNS)によるデモの呼びかけに応じ、多くの人が街頭に繰り出した。チュニジアやリビアで長期独裁政権が倒れ、エジプトでも約30年間、政権の座にあったムバラク大統領が辞任に追い込まれた。

 欧米中心に世界は、アラブの民衆が抗議の声を上げて強権支配を崩したことに驚き、称賛した。

 だが、その後の10年、この地域で目撃されたのは、無秩序や出口のない内戦、大量の難民、強権統治の復活などである。

 イスラム教徒が人口の大多数を占めるアラブ世界で、各国はそれぞれ、民族や宗派、経済などで複雑な事情を抱える。

 民主化が進むとの期待は早計だった。熱狂の背後にある脆(もろ)さを肝に銘じたい。アラブ諸国の厳しい現実を直視せねばならない。

 留意すべきは、中東の混迷がテロの脅威などとなって、日本を含む世界に波及するということだ。遠い場所の出来事と見過ごすわけにはいかない。

 反政府デモをアサド政権が徹底弾圧し、周辺国が介入して始まったシリア内戦は、まもなく10年になる。戦火の広がりに、大勢の人々が国を逃れた。2015年の欧州難民危機を引き起こしたことを忘れてはならない。反イスラム感情が高まり、ポピュリズム(大衆迎合主義)が勢いを増した。

 テロの脅威も高まった。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大し、一時はシリアとイラクにまたがる広い地域を支配した。

 暴力的過激主義はインターネットを通じて世界に拡散し、共鳴する戦闘員以外の犯行も含め、テロは欧米でも相次いだ。

 反政府デモで民衆の貴重な連絡手段だったSNSが、テロの道具ともなりうる。その威力を正しく認識する必要がある。

 独裁体制が倒れたアラブ各国でなぜ、民主的な新体制が現れなかったのか。シリア内戦はなぜ、泥沼化したのか。バイデン米次期政権は、「アラブの春」の反省の上に立って中東政策を進めてもらいたい。日本は原油の9割を中東に依存している。米国と協調し、中東安定に努力すべきだ。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ