【主張】運転免許返納 家族で今一度話し合いを

 異例の裁判である。

 前橋市で乗用車を運転中に事故を起こし、女子高校生2人を死傷させたとして自動車運転処罰法違反の罪に問われた高齢の男性被告に1審前橋地裁は無罪を言い渡した。だが被告側は東京高裁の控訴審で「被告は高齢であり、罪を償って人生を終わらせたい。有罪の判決をお願いする」と主張した。

 注目の判決は11月25日に言い渡されるが、一連の過程で明らかになったのは、事故の悲惨さとともに、加害者家族の後悔だった。

 事故当時85歳だった被告は低血圧などの症状で通院しており、物損事故を繰り返していた。同居する家族は運転を控えるよう強く被告に伝えたが、隙を見ては運転を続けていた。家族は車の鍵を隠すことやタイヤの空気を抜くことまで検討していたという。

 家族は1審の判決後、「もっと力ずくで止めていればよかった。それをずっと悔やんでいる」と話していた。

 東京地裁では東京・池袋で昨年4月、母子2人が死亡した事故で自動車運転処罰法違反の罪に問われた旧通産省工業技術院元院長の被告(89)の裁判が始まった。こちらの被告は車の異常を主張して起訴内容を否認している。

 この事故を契機に6月、改正道交法が成立した。一定の交通安全違反歴のある75歳以上は免許更新時に運転技能検査(実車試験)が義務付けられる。

 運転免許証の自主返納も進んでおり、昨年は60万件を超え、うち75歳以上が約35万件で、いずれも過去最多を更新した。ただその実情は多くがペーパードライバーによるもので、日常的に運転する高齢者ほど、返納には拒否感が強いとされる。

 地方によっては生活に欠かせぬ足であり、高齢配偶者の介護のためなど、免許証を手放せない事情もそれぞれである。

 ただ悲しいかな、反射神経や集中力は減退する。誰も逃れられない。死亡事故の人的要因では、75歳以上の約4割はブレーキとアクセルの踏み間違いといった「操作不適」である。

 交通手段の自治体支援や自動運転技術の発達を待つ間にも事故は起きる。自主返納を拒む高齢運転者とは、家族がもう一度、じっくりと話し合ってほしい。

 前橋の被告家族の悔恨を、自らのものとしないために。

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