【主張】首相の退陣表明 速やかに自民党総裁選を 「安倍政治」を発射台にせよ

 安倍晋三首相が体調の悪化を理由に辞任する意向を表明した。

 第1次内閣との通算で憲政史上最長の在任期間を更新し、平成24年12月の第2次内閣発足からでも7年8カ月にわたり政権の座にあった。安倍首相の退陣表明は、内外に衝撃を与えている。

 新型コロナウイルス禍のさなかである。自民党は国政の混乱を最小限にするため、速やかに総裁選挙を実施し、新たなリーダーを決めてもらいたい。首相臨時代理は置かず、次期総裁の選出と国会の首相指名選挙まで安倍首相が職務に当たる。

 ≪多くの仕事成し遂げた≫

 首相は記者会見で、辞任決断の理由として持病の潰瘍性大腸炎の症状が悪化したことを挙げた。

 首相は「病気と治療を抱え、体力が万全でない苦痛の中、大切な政治判断を誤ることがあってはならない」と述べ、コロナ禍の下での辞任を国民に謝罪した。

 第1次内閣時の辞任に続いて今回も退陣の理由となった潰瘍性大腸炎は、首相にとって10代からの持病である。難病を抱えながら全力で国政に当たってきたことは疑いない。治療に努め、体調を回復させて再び活躍してほしい。

 首相は幾度も国政選挙を勝ち抜いた。政権後期には「モリ・カケ」問題などを追及されたが、総じて安定した国政運営だった。

 安倍政権の業績は、歴代自民党内閣の中でも著しい。

 第1次内閣では、教育基本法を改正し、「わが国と郷土を愛する態度を養う」という理念を盛り込んだ。憲法改正の是非を決める国民投票法を成立させ、国民の権利を実質的に広げた。

 再登板した第2次内閣では、前の民主党政権が不安定にした同盟国米国との関係を立て直した。

 安全保障環境の悪化に備えるため憲法解釈を見直し、集団的自衛権の限定行使を容認する安全保障関連法を制定した。国家安全保障会議(NSC)創設なども含め、厳しさを増す安全保障環境の中で国民の安全を守ってきた。

 法の支配や自由貿易を守る世界の有力指導者と目された。トランプ米大統領と良好な関係を築き、「自由で開かれたインド太平洋」構想を日米共通の戦略に仕上げた。米国が離脱した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も11カ国での発効にこぎつけた。

 202年ぶりの譲位による天皇陛下の御代(みよ)替わりを支えた。デフレ脱却を掲げてアベノミクスを打ち出し、雇用改善につなげた。社会保障財源を確保するため、政治的に困難な消費税率引き上げを2度にわたって行った。

 働き抜いた首相だが、達成できなかった重要課題もある。

 「歴史的使命」と語ってきた憲法改正は、衆参両院で多くの改憲勢力を擁しても改正案の発議ができなかった。極めて残念だ。

 ≪憲法改正は実現できず≫

 北朝鮮による日本人拉致被害者の全員帰国を「最重要課題」としてきたが解決のめどは立っていない。北朝鮮の核・ミサイル戦力は深刻な脅威のままである。

 戦没者に慰霊の誠を尽くす靖国神社参拝は長期政権にあっても平成25年の一度限りだった。

 プーチン露大統領との良好な関係に基づき、平和条約締結を含む北方領土問題の解決を目指したが大きな進展は得られなかった。

 コロナ禍という国難は続いている。自ら招致に尽力した東京五輪・パラリンピックの行方も見通せない。

 いずれも、次の政権に引き継がれるべき課題である。

 安倍首相が政権終盤ではっきり示せなかったのが、対中融和政策の見直しである。中国政府は、香港や新疆ウイグル自治区で弾圧を繰り返し、南シナ海では人工島の軍事化など「力による現状変更」を目指している。東シナ海では日本固有の領土である尖閣諸島(沖縄県)を奪おうとしている。

 米国などは、全体主義中国の覇権志向を抑えようと動き出している。日本は弾圧の責任者である習近平国家主席の国賓来日の招請を取り消していない。

 自民党総裁選に立候補する政治家は、「安倍政治」の成果と方向性を尊重することが望ましい。

 コロナ禍に伴う経済的苦境からいかに脱し、成長軌道へと戻すのか。米中対決を基調とする現下の国際情勢にどのような姿勢で臨むのか。これに対して、はっきりとした政見を示す必要がある。

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