【主張】香港の改正案撤回 一国二制度に監視怠るな

 香港で激しい反発を招いた逃亡犯条例の改正案が撤回された。事態の幕引きを狙った中国政府の意図が透けてみえる判断である。

 約3カ月に及ぶ抗議を支えた市民の怒りは改正案にとどまらない。香港の「一国二制度」への危機感であり、制度を骨抜きにし続けた中国への不信がその原動力なのである。

 実現されるべきは改正案撤回といった小出しの譲歩ではない。一国二制度に基づく高度自治の完全な実施である。中国は、これなくして香港に真の安定はないことをはっきりと認識すべきだ。

 ところが、香港統治の現実は甚だ心もとない。

 テレビ演説で撤回を公表した香港特別行政区の林鄭月娥行政長官は、6月時点で、改正案を来年7月に実質廃案とする方針を示していた。より明確な「撤回」の表明を許さなかったのは、中国政府の意向とされる。

 中国は、改正案を撤回すれば市民は納得すると踏んでいるのかもしれない。建国70年を迎える国慶節(10月1日)までに幕引きする意図が明白である。だが、これはあまりに身勝手ではないか。

 学生らは、撤回や独立調査委員会設置などの5項目を掲げて完全な履行を訴えている。学生リーダーの黄之鋒、周庭両氏は「抗議の継続」を呼びかけた。

 中高生を交えた行動は撤回表明後の5日も続いた。中国の期待に沿った収束は難しいとみるのが自然だろう。

 中国政府の考えが香港の実態と食い違うなら、香港市民の側に立って北京を説得するのが行政長官の務めのはずだ。少なくとも、一国二制度が健全に機能しているのなら、そうあるべきである。

 林鄭氏は、行政長官が想像以上に無力な現実を露呈させた。ロイター通信が報じた非公開発言では「選択肢があるのなら辞任して謝罪したい」と述べたのに、その後も職にとどまり、中国政府の筋書きに沿う発言を繰り返した。直接選挙を経ていない行政長官が一国二制度の担い手として市民の信頼を回復することはなかろう。

 香港の一国二制度は、1984年の中英共同宣言に基づく国際公約である。香港市民が高度自治を渇望する限り、国際社会が結束して制度の実施状況を監視するほかない。日本が率先してその任に当たることを望みたい。

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