【主張】防災の日 命守る備えを徹底しよう 「複合」リスクの軽減を図れ

 8月下旬に列島沿いに停滞した前線は九州北部に猛烈な雨を降らせ、大規模な冠水や家屋の浸水などの被害が相次いだ。

 広範囲が冠水した佐賀県大町町では順天堂病院が孤立した。病院から約1キロ離れた鉄工所から流出した油の除去作業のために排水が遅れ、孤立状態が長引いた。

 大雨は峠を越えても、被災者にとっては厳しい状況が続く。屋内外の片付けや洗浄には、自治体やボランティアの力も必要となる。できるだけ早く日常生活を取り戻せるよう、緊密に連携して被災者を支えたい。

 ≪関東大震災から96年に≫

 9月1日は、「防災の日」である。日本は災害多発国である。命と生活を守るためにどのように備え、災害時にどう行動すべきか、国民一人一人が再確認したい。

 防災の日に合わせて、避難訓練や防災イベントを行う地域や学校は多いだろう。たとえば、大規模地震を想定した訓練でも、台風や豪雨に思いを巡らせることが重要な意味を持つ。

 96年前(大正12年)の9月1日に起きた関東大震災は、マグニチュード(M)7・9の大地震と台風による強風が重なった「複合災害」だった。

 現在の日本列島は、南海トラフ地震や首都直下地震の切迫度が高まり、阪神大震災(平成7年)や熊本地震(28年)のようなM7級の内陸直下型地震はいつ、どこで発生してもおかしくない。

 一方で、地球温暖化の影響とみられる気象災害の激甚化で、「数十年に1度」あるいは「過去に経験のないような」災害が、近年は頻繁に発生している。

 複数の自然災害が同時、もしくは立て続けに起きて被害が拡大する「複合災害」のリスクが極めて高いことを、防災の前提として認識する必要がある。

 冠水状態が長引いた大町町を思い起こしてみよう。あの状況で「地震が起きない」とは限らないのだ。

 不安を煽(あお)るわけではない。たとえば、冠水を長期化させた油の流出を防ぐ手立てはある。学校などの避難施設や病院の耐震、防火を徹底したうえで暴風雨や猛暑などのリスクを検証して安全性を高める。食料や日用品の備蓄も「複合」を想定して見直す。

 あらゆる複合災害に完全に備えることは不可能であっても、一つ一つの対策を徹底することでリスクは小さくできるはずだ。

 ≪水害の「制御」も検討を≫

 大町町の広域冠水は、通常時は六角川に注ぐ支流や用水路の水が、排水能力を超える雨であふれる「内水氾濫」と呼ばれる現象によるものだったという。

 昨年7月の西日本豪雨で岡山県倉敷市真備町に大きな被害を及ぼした河川氾濫は、支流の水は本流に注ぎ込めなくなる「バックウオーター現象」が要因の一つとなったと指摘されている。

 いずれも氾濫リスクが大きいと指摘されていた地域である。

 地球温暖化に急ブレーキはかけられない。記録的豪雨が全国各地を、繰り返し襲う可能性があるのだと考えなければならない。

 藤沢周平の「蝉しぐれ」(文春文庫)に、海坂藩城下の浸水拡大を防ぐため、上流で堤を切る場面が描かれている。

 地震、津波や土砂災害は制御不能だが、河川の氾濫は人為的なコントロールの余地がある。リスクの大きい地域、とくに大町町や真備町のように大きな被害に遭った地域では、リスク軽減のために氾濫を制御することも検討すべきではないだろうか。

 たとえば、河川が増水し氾濫が避けられないと判断したとき、決壊させる場所、あふれた水を誘導する場所を、あらかじめ決めておくのである。

 どこが決壊するか分からない場合に比べ、避難対象地域が絞り込まれ、的確な避難と安全確保、混乱回避などの利点が期待できるだろう。

 洪水被害の軽減策として「田んぼダム」も紹介しておきたい。水田の貯水機能を利用して、大雨の際は一時的に水田に水を貯(た)め、被害軽減を図るものだ。

 平成14年度に新潟県旧神林村(現村上市)で始まった取り組みで、各地に広がっている。

 河川氾濫を防ぎきれるわけではないという。しかし、「今できることを実行する」という農家と地域の取り組みに学びたい。

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