俳優の妻夫木聡が主演を務め、競馬の世界を舞台に、家族や競走馬の絆や熱い思いを描く「日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』」(TBS系)。物語も中盤に入り、第6話(11月16日放送)では、病魔に襲われた馬主・山王耕造(佐藤浩市)や、耕造を支える秘書、栗須栄治(妻夫木)をはじめとするチームが、ロイヤルホープの最後のレースとなる4度目の有馬記念(GI)に挑んだ。
原作者である作家、早見和真さんが同名小説(新潮文庫刊)の連載を始めたのは、2017年。そこから8年以上の時を経てドラマ化された本作について、撮影現場である東京競馬場を訪れた早見さんが、感動したシーンや、妻夫木ら俳優陣に対して抱いた思い、ドラマ化の裏話などを語った。
自然の中の馬が生む感動 映像でしか描けない世界
――ここまでの放送を振り返って、気づいたことなどを教えてください
「日曜劇場って、すごいなと思いました。これまでも自分の作品で映画化やドラマ化の経験はありましたが、こんなにたくさんの方から連絡をもらい、『良かった』という声が一斉に集まったことは初めてです。改めて、テレビの持つ可能性を感じました。
同じ時間にみんなが“せーの”で同じものを見て、感想が一気に湧き上がる。この感覚はテレビならではだな、と。正直、ちょっと衝撃的でした」
――特に目を奪われたシーンは?
「企画が立ち上がった当初から、制作スタッフの皆さんには、『“自然の中に馬がいる”という画さえ撮ってもらえれば、それだけで感動できる」と伝えていました。その期待をはるかに超えて、映像として切り取ってくださっています。
しかもワンパターンじゃないんです。北海道・日高地方の風景や昆布漁のシーンにも心を動かされました。小説ではどうしても表現できないものを、映像の力で見せつけられた感覚です。
もう少し突っ込むと、競馬好きからすると『こんなカットで馬を撮るんだ』と驚く場面がいくつもあります。もともと競馬に詳しいほうではなかったという塚原(あゆ子)監督だからこそ、撮れる映像なんだろうなと思います。
特に印象的だったのは第2話のラスト。競馬場の急坂を映す時に、画面いっぱい緑になるんですよ。最初に映像を見た時、『飛んだのか?』と思ったくらい。でもその緑の壁の向こうからロイヤルイザーニャが現れた瞬間、『やられたな』と痺れました」
「浩市さんの塩梅も完璧」俳優陣への信頼
――栗須役の妻夫木さんについて、「この人しかいない」と思われた理由は?
「妻夫木さんとご一緒するのは今回で3度目になります。
役者という世界はどうしても『自分がどう見られるか』『どう輝くか』を考えるもの。セルフプロデュースという意味で、当然それは正しいことだと思っています。その上で、妻夫木さんは、僕の知る中で数少ない“作品に全力でベットできる人”。座長として作品の真ん中に立ちながら、みんなの思いを背負い、みんなが輝くことを本気で信じている。そして作品が輝けばみんな幸せになれると、それを疑わない人なんです。
僕が感じている妻夫木さんの人柄は栗須さんそのもので。みんなの中心に立ちながらも、人のために動ける。そして、1頭の馬が勝てばみんなが幸せになると思える人なんです。なので、栗須役の候補として妻夫木さんの名前を見た時に、『原作者権限とかじゃないですけど』と前置きした上で、『可能ならぜひ』とお伝えさせていただきました」
――他のキャスティングについて感じられたことは?
「馬主である山王耕造については、佐藤浩市さんが演じることで、耕造という人物に“品”と“生々しさ”が同居した気がしました。もし別の方が演じていたら、あの“昭和感”がコミカルになりすぎていたかもしれません。浩市さんの塩梅は本当に完璧だと感じています。
耕造の隠し子である中条耕一を演じている目黒蓮さんについては、顔合わせの時点ですぐに『思いを背負える人だ』と感じ、簡単に委ねることができました。
実際に目黒さん演じる耕一の姿を見てみると、想像をはるかに超えていました。僕が小説で書きたかった耕一という人物の屈託のなさと、かすかな影。その両方が彼に宿っていて、まさに体現してくれているなと思います。
栗須の元恋人で、生産牧場を経営する野崎加奈子を演じる松本若菜さんも、あんなに美しいのに、どこか“田舎臭さ”がある。牧場でのシーンより、むしろ横浜の夜景をバックにするときなどにそう感じることが多く、役者さんってすごいなぁと感心させられます。
騎手の佐木隆二郎役の高杉真宙くんはふらふらして見えても、体幹がしっかりしている感じがまさに騎手っぽいなと。
自分の原作の時は、より厳しく見てしまうのですが、今回は心から「幸せだな』と思えるくらい本当に全員がこの作品に向き合ってくれているんだと伝わってきます」
妻夫木から「7話は神回です」とメッセージが…
――最後に、視聴者へのメッセージを
「第7話の撮影を北海道ロケで終えた時、塚原さんと妻夫木さんから連絡がありました。妻夫木さんからは加えて「7話は神回です」と書かれていたんです。僕も脚本を全て読んだ段階で、最終回とこの7話が飛び抜けて好きでした。
なので、この記事に触れた人でまだこの『ザ・ロイヤルファミリー』をご覧になっていない方は、7話の前にぜひ1話から6話まで見ていただきたいです。そして、すでにご覧になっている方も、第7話の放送前にもう一度おさらいすると、きっとより深く楽しめると思います」