「浩市さんの塩梅も完璧」俳優陣への信頼
――栗須役の妻夫木さんについて、「この人しかいない」と思われた理由は?
「妻夫木さんとご一緒するのは今回で3度目になります。
役者という世界はどうしても『自分がどう見られるか』『どう輝くか』を考えるもの。セルフプロデュースという意味で、当然それは正しいことだと思っています。その上で、妻夫木さんは、僕の知る中で数少ない“作品に全力でベットできる人”。座長として作品の真ん中に立ちながら、みんなの思いを背負い、みんなが輝くことを本気で信じている。そして作品が輝けばみんな幸せになれると、それを疑わない人なんです。
僕が感じている妻夫木さんの人柄は栗須さんそのもので。みんなの中心に立ちながらも、人のために動ける。そして、1頭の馬が勝てばみんなが幸せになると思える人なんです。なので、栗須役の候補として妻夫木さんの名前を見た時に、『原作者権限とかじゃないですけど』と前置きした上で、『可能ならぜひ』とお伝えさせていただきました」
――他のキャスティングについて感じられたことは?
「馬主である山王耕造については、佐藤浩市さんが演じることで、耕造という人物に“品”と“生々しさ”が同居した気がしました。もし別の方が演じていたら、あの“昭和感”がコミカルになりすぎていたかもしれません。浩市さんの塩梅は本当に完璧だと感じています。
耕造の隠し子である中条耕一を演じている目黒蓮さんについては、顔合わせの時点ですぐに『思いを背負える人だ』と感じ、簡単に委ねることができました。
実際に目黒さん演じる耕一の姿を見てみると、想像をはるかに超えていました。僕が小説で書きたかった耕一という人物の屈託のなさと、かすかな影。その両方が彼に宿っていて、まさに体現してくれているなと思います。
栗須の元恋人で、生産牧場を経営する野崎加奈子を演じる松本若菜さんも、あんなに美しいのに、どこか“田舎臭さ”がある。牧場でのシーンより、むしろ横浜の夜景をバックにするときなどにそう感じることが多く、役者さんってすごいなぁと感心させられます。
騎手の佐木隆二郎役の高杉真宙くんはふらふらして見えても、体幹がしっかりしている感じがまさに騎手っぽいなと。
自分の原作の時は、より厳しく見てしまうのですが、今回は心から「幸せだな』と思えるくらい本当に全員がこの作品に向き合ってくれているんだと伝わってきます」




