ビッグモーター(BM)による自動車保険の保険金不正請求問題で、金融庁は19日に始めたBMと損害保険ジャパンへの立ち入り検査を通じて両社の癒着の構図に切り込む。損保ジャパンについては、単独でのBMとの取引再開と損害査定での簡易調査の導入、約40人もの出向者の派遣という3つの問題を中心に徹底的に調査。保険代理店のBMについては、保険募集などの問題を追及する。
「問題の根本原因を特定すべく深度ある実態調査を進める。立ち入り検査で判明した内容に応じ厳正に対処する」。鈴木俊一金融担当相は19日の閣議後の記者会見でこう述べ、厳しい姿勢で検査に臨む考えを強調した。
金融庁が特に問題視するのが、昨年6月に損保ジャパンなど損害保険大手3社がBMの不正の疑いを受け事故車の斡旋(あっせん)を停止した後、損保ジャパンだけがBMの報告を踏まえ再開を決めたことだ。
BMは事故車の斡旋の見返りに自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の契約を損保各社に割り振っていた。損保ジャパンの白川儀一社長はBMとの関係悪化を恐れ、不正の疑いを認識しつつ再開を主導。慎重論もありながら最終的に再開に至った経緯について、金融庁は内部管理体制に問題があったとみて重点調査する。
損保ジャパンがBMの全工場で導入した簡易調査にも、金融庁は大きな関心を寄せる。簡易調査は事故車両の損害度合いを査定する際の手続きを一部省く措置で、不正を助長したと指摘される。BMとの関係強化が目的だった可能性がある。
BMが取り扱った令和4年度の保険料約200億円のうち、損保ジャパンは約6割を占めた。
出向者の数は約40人に上り、東京海上日動火災保険と三井住友海上火災保険を大きく上回る。BMとのもたれあいの象徴といえ、金融庁は出向者らの役割や不正への関与について詳しく調べる。
一連の問題ではSOMPOホールディングスの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者(CEO)の企業統治のあり方を疑問視する声も上がる。今後の調査によっては桜田氏の経営責任に発展する可能性もある。
一方、BMに関しては保険代理店としての立場を悪用し、虚偽の保険契約を結んでいたことなどが検査の焦点となる。(中村智隆)