25年前、四つ子を授かった。子育ての手が足りない。妻は近所の東京商船大学(当時)の掲示板に手書きの「ベビーシッター募集」のチラシを貼らせてもらい女子学生数名が来てくれた。
未婚で子育ての経験がない学生で大丈夫かと思ったが、杞憂(きゆう)だった。みんな素直に妻の言うことを聞き、一生懸命やってくれた。近隣の奥様方も手助けに来てくれていたが、夕方には帰らなければならない。
学生たちは授業後に来て見事にその時間を埋め合わせ、わが家で夕飯を食べながら遅い時間までいてくれた。おしゃべり好きな妻の格好の話し相手になってくれた。ちょっとした買い物や雑事を嫌がらずにしてくれたのがとてもありがたかった。大変な子育てだったが、若々しく活気にあふれた雰囲気が満ちて、家の中は明るかった。
今や当時の女子学生たちも家庭を持ち、立派なお母さんである。自分で子育てをして当時の妻の大変さがわかった、当時の経験が子育てに役立ったなどと年賀状で知らせてくれる。
妻は彼女たちの結婚の知らせまでは聞くことができた。存命だったら彼女たちの子育ての話を喜んだろうし、もっと深く長い付き合いが続いていたと思う。彼女たちに改めて感謝の気持ちを伝えたい。
伊藤敏孝(65) 東京都中野区
「朝晴れエッセー」投稿500字で
「朝晴れエッセー」の投稿は600字程度でしたが、500字程度(改行によるスペースも含む)に変更します。