がん患者やその家族が悩みを寄せる「がん電話相談」。今回は症例が少ない子宮体部明細胞がんと診断された55歳女性に、がん研有明病院元婦人科部長の瀧澤憲医師が答えます。
――閉経していますが、不正出血があり、地域のがんセンターで子宮体がんと診断されました。ロボット手術で基本手術(子宮全摘、両側の卵巣卵管切除、骨盤リンパ節郭清)を受けました。がんの浸潤(広がり)は子宮体部筋層の2分の1未満と浅く、大きさも2センチ未満で小さく、リンパ節転移は陰性でステージⅠA(ⅠA期)。術後の病理検査で、子宮体部明細胞がんだと分かりました。どんながんですか。
「明細胞がんは子宮体がん全体の1~2%程度と少なく、がん研有明病院でも1年に数例ほどです。子宮体がんの約85%は、がんが最初に発生する子宮内膜に類似した類内膜がんですが、明細胞がんは子宮内膜との類似性に乏しい特異な顔つきのがんです」
――手術前に明細胞がんと分かっていたら手術方針も変わっていたのでは。
「不正出血に気づいて早期に受診した場合、一般的に腫瘍(しゅよう)の体積がまだ小さく、子宮内膜の審査切除術(子宮内腔に鋭匙を挿入し内腔全体を搔爬して組織を採取)で体がんとは診断できても、明細胞がんと特定するのは難しいでしょう。画像診断でも、明細胞がんに特異的な所見がまだ分からないというのが現状です」
――明細胞がんの予後(治療成績)は不良といわれ、心配しています。
「同じⅠA期でも、類内膜がんは基本手術だけで術後治療をせずに5年生存率95%以上。一方、子宮体部明細胞がんⅠA期の5年生存率の明確なデータはありません。それでも予後不良だといわれるのは、たまたま経験したⅠ期の明細胞がんの予後が予想外に悪かったり、再発した明細胞がんの抗がん剤に対する感受性が良くなかったりして、医師側にそうした印象が強く残っているためです」
「また術前に明細胞がんと診断できれば、腫瘍が小さい場合でも、基本手術よりも切除範囲を拡大したステージングラパロトミー(基本手術に、大網切除と傍大動脈リンパ節の郭清を加えた手術)を行えますが、現状では術前にそう診断を下すことができません。それも予後が悪い原因になっているかもしれません」
――主治医に化学療法(抗がん剤治療)を勧められています。明細胞がんは抗がん剤の感受性が低いといわれていますが、受けたほうがいいですか。
「子宮体部明細胞がんⅠA期の抗がん剤の有無別予後を比較するデータもありません。ただ、同じ子宮体部にできるがん肉腫や、漿液(しょうえき)性がんなどのⅠA期は5年生存率が70%ほどで、あまり予後がよくありません。明細胞がんはこれらと比べてもさらに予後がよくないと考えられるため、より拡大した手術としっかりとした化学療法が勧められます」
――化学療法ではなく放射線治療は可能ですか。
「明細胞がんは腹膜播種(はしゅ)再発や遠隔転移再発が多いとされます。そのため局所だけの放射線治療よりも、全身に広がっている可能性のあるがん細胞をたたくことができる化学療法が優先されます」
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