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半世紀前の技術で途上国のインフラ整備 SPECが市場開拓

土壌硬化剤「STEIN」。普通セメントに27種類の無機物を添加している(SPEC提供)
土壌硬化剤「STEIN」。普通セメントに27種類の無機物を添加している(SPEC提供)

半世紀前に開発された日本発の独自技術で、途上国のインフラ整備に貢献しようとしている企業がある。土に混ぜて固めることで道路や水路などを建設できる土壌硬化剤を手掛けるSPEC(東京都杉並区)だ。アスファルトや鉄筋コンクリートなどに比べ、短期間で安価に整備できる利点を生かし、普及に向けて途上国で実証を重ねている。

この土壌硬化剤は「STEIN(シュタイン)」。95%の普通セメントに、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなど27種類の無機物5%を添加した粉末状の製品だ。土の粒子は電気を帯びプラス・マイナスの引き合う力で結びついているが、土の重量に対して10~15%のSTEINを混ぜることで粒子間の結びつきを強化。適量の水を加えることでセメントも固まり、3日で大型トラックが通れる道路などとして利用できるようになる。

その場にある土を主な道路資材として使い、他所から運んでくる資材が少なくて済むため脱炭素技術としても評価されている。今年4月には外務省の「脱炭素技術海外展開イニシアティブ」の脱炭素技術にも採択された。耐久性もあり、道路などの耐用年数は最低10年、最長で45年の実績があるという。

STEINは1975(昭和50)年に松村綜合科学研究所(北海道旭川市)が開発、かつては日本でも道路整備などに使われた。その後、アスファルトが広く普及したことで、日本では道路整備のためには使われることはなくなった。

STEINを使って施工したカンボジアの道路(SPEC提供)
STEINを使って施工したカンボジアの道路(SPEC提供)

そうした中で、メッキ工場の廃液など重金属の封じ込め技術を探していた久保金属の久保祐一社長が「途上国のインフラ整備を下支えできる技術」と評価。2004年に松村綜合科学研究所と合弁でSPECを設立し、途上国への普及を進めることにした。久保氏は05年からSPECの社長も務めている。

普及を目指している国の一つがカンボジアだ。雨期には舗装されていない道路は車が走行できなくなることもあり、国際協力機構(JICA)の支援事業を活用して、16年から普及に向けた調査を開始。22年にはカンボジアの水資源気象省の委託を受け、首都プノンペン近郊でSTEINを使って100~150メートルの道路3本を施工した。

他の施工方法に比べ、コスト面でもメリットがある。SPECによると、カンボジアで事業を実施した際に試算したところ、道路1平方メートル当たりの施工コストは9ドル(約1300円)で、23ドルの鉄筋コンクリート、18ドルのアスファルトに比べて半分以下だったという。カンボジアでは今後、日本の政府開発援助(ODA)で整備済みの国道から接続する支線道路整備を行う計画もあり、参画を目指している。

カンボジアのほかにも、ナイジェリアで試験的に道路を建設。スリランカではため池をつなぐ水路建設を行うなど施工実績は15カ国に及ぶ。ケニアのモイ大学とは現地の特殊な土壌でも道路整備ができるように共同研究を始めている。

途上国に普及させるための課題は知名度の向上だ。普及活動の資金調達のためクラウドファンディングを実施、約3700万円の応募を得た。久保氏は「雨期になり、道路が通れなくなれば人の命にもかかわる。この技術を必要な国に届けていきたい」と話している。(高橋俊一)

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