コンピューターゲームの腕を競う「eスポーツ」が、23日開幕の杭州アジア大会(中国)で初めて正式競技となる。
国際オリンピック委員会(IOC)は、将来の実施競技として採用に前向きだ。五輪のあるべき姿を含めて、建設的な議論が行われることを期待したい。
IOCが6月にシンガポールで開催した「オリンピックeスポーツシリーズ」では、国際競技団体やゲームメーカーの協力を得て、野球や自転車、射撃など10種目を行った。64カ国・地域から約130人の選手が参加し、会場の大画面に映し出される熱戦に歓声が起こるなど、盛況のうちに幕を閉じた。
IOCは身体運動を伴う種目の五輪採用を模索している。実際にペダルを漕(こ)ぎ画面上の仮想コースで競う自転車や、手足にセンサーを着けプレーヤーの動きを仮想世界に再現するテコンドーは競技性が高い。
ゲームをスポーツとして扱うことについては長年、賛否が割れてきた。社会生活に影響の出るゲーム依存を、世界保健機関(WHO)が病気として認める一方で、「スポーツ離れ」が指摘される若者に対しeスポーツが高い訴求力を持つことは否定できない。
年齢や性差、障害の有無を超えて楽しめる生涯スポーツの側面もある。世界での市場規模は伸び続けており、スポーツ界が収益につなげる余地もある。
招致都市の減少など、いま手を打たなければ五輪の衰退は避けられない。打開策の一つとして、IOCがeスポーツに目を向けたことは理解できる。
問題は、何のために五輪を開くのかという視点があるかどうかだ。IOCには五輪の発展以外にも、各競技の持つ固有の歴史と伝統を守る義務がある。
若者の歓心を得るために、娯楽性やショーの要素に傾斜を強めるだけでは、大会の継続は望めない。新しい競技と伝統競技のバランスをどう保つのか、腰を据えた議論も必要だ。
eスポーツ界が五輪競技を目指すなら、将来像を含めた価値を提示してほしい。選手は若者の模範となれるのか。教育的価値や社会的責任を示せるのか。何よりも五輪競技として「より速く、より高く、より強く」のモットーを体現できるのか。その視点を忘れてはならない。