書く書く鹿じか

世代を超え集えるハレの場 百貨店 オワコンにあらず

西武池袋本店前でストライキを支持する人たち=8月31日、東京都豊島区
西武池袋本店前でストライキを支持する人たち=8月31日、東京都豊島区

先月31日、百貨店大手のそごう・西武の売却をめぐって、労働組合がストライキを行った。百貨店では61年ぶりだそうだが、他の業種でもストは珍しい。西武池袋店はかつて単一店舗として売り上げ日本一を誇っただけに、百貨店業界の苦境を印象づけた。

百貨店と万博には共通点がある。辞書を引くと「百」には「多くのもの。種々のもの」の意味があり、「万(よろず)」も「数の多いこと。さまざまであること」と出ている。

どちらも19世紀半ばに登場した。万博は1851年にロンドンで第1回が開かれた。産業革命によって大量生産、大量消費の時代を迎え、万博は科学技術の進歩が創り出す未来の展示場だった。

百貨店は翌1852年にパリに誕生したボン・マルシェが始まりで、その後、ロンドンのハロッズ、ニューヨークのメーシーなど世界各地に次々に開店した。日本では明治37(1904)年の三越が最初である。「今日は帝劇、明日は三越」の広告が評判になった。

百貨店はその名の通り、あらゆる商品をそろえ、便利で快適な暮らしを提案して、欲望をかき立てた。さらに屋上遊園地やレストラン、劇場・映画館などもあり、一日中楽しめるミニ万博のようだった。

大衆に夢を売り、消費文化を牽引(けんいん)してきた百貨店が、オワコン(嫌な言葉だ)と言われて久しい。終わったコンテンツ、すなわち魅力がなくなり、話題性が薄れて興味を引かなくなったという意味である。

数字が裏付ける。日本百貨店協会によると、昨年の全国の百貨店の売上高は4兆9812億円で、ピークだった平成3(1991)年の9兆7130億円と比べてほぼ半減している。店舗数も今年2月には182店で、ピーク時から約4割減った。とくに地方では、郊外の大型ショッピングセンターやネット通販などに客を奪われ、コロナ禍の外出自粛もあって経営が悪化し、閉店が相次いでいる。

僕は北海道で生まれ育ったが、幼い頃に連れて行ってもらった帯広市の百貨店が、今年1月末に120年余りの歴史の幕を閉じた。高校時代を過ごした小樽市にはかつて3軒の百貨店があったが、今は一つもない。おもちゃ売り場で目を輝かせ、初めてオムライスを食べた思い出の場所が消えてしまった。

百貨店が好きだ。別にほしいものがあるわけでもないのに、足が向く。ショーウインドーのディスプレーに季節の変化を感じ、催事場の物産展で旅行気分を味わう。正月は福袋を求めて、開店前に行列した。そういえば、昭和60(1985)年の阪神タイガースの優勝記念セールはすごい人だった。今年もきっと大盛り上がりだろう。

高齢者は出不精になる。街には世代を超えて人々が集うハレの場が必要だ。百貨店はオワコンなんかじゃない。(元特別記者 鹿間孝一)

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