神奈川県鎌倉市のスタートアップ(新興企業)が厳しい食事の管理が求められる腎臓病患者向けの健康管理アプリを開発した。食べた食材や料理を入力すると、カロリーやタンパク質など、患者にとって重要な栄養素の量を記録でき、腎臓の機能低下を防ぐための食事制限に役立つ。重い負担に苦しむ患者に対する社長の強い思いが開発につながった。
アプリの名前は「栄養ビジョン」で鎌倉市のスタートアップ「トーチス」が開発し、8月下旬から提供している。無料で利用でき、アプリに料理名を入力すると、レシピが表示され、使った食材の入力も簡単にできる。患者が制限されている栄養素の1日の摂取量を自動で計算でき、松岡大輔社長(31)は「制限の負担を軽減し、さまざまな献立で、食事を楽しんでもらえるようにしたい」と狙いを話す。
患者には腎臓に負担をかけないためにタンパク質を制限しつつ、それに伴うエネルギー不足を防ぐ低タンパク質高カロリーの食事が求められる。腎機能の低下で体外に排出されにくくなるカリウムなども制限が必要だ。
松岡さんは腎臓病を患う母が毎日の食事を細かく記録している姿を見て、大学在学中からアプリ開発に着手した。料理レシピの検索・投稿サイトを運営する「クックパッド」などを経て、鎌倉市に移住し、起業した。
松岡さんは「利用者の熱が高い。市場としては狭くても深いニーズがある」と自信をのぞかせる。トーチスは今年2月、腎臓病患者の血液検査の結果を記録できるアプリ「じんぞうグラフ」をリリース。利用者は500人程度だが、10年前までさかのぼって記録を入力する利用者もいて、数カ月で1万件超のデータが集まったという。
松岡さんは検査や食事のデータを電子カルテにひも付け、診療の効率化につながるように医療機関との連携も模索。ネット通販で低タンパク質で高カロリーな食品を購入できる腎臓病患者のためのサービスなども構想しているという。
腎臓の機能低下に伴う人工透析は数日おきに受けなければならず、1回に5時間程度かかるため、患者の負担は重い。松岡さんは「腎臓病を取り巻く課題は深刻であり、特化する意義は大きい」と話している。(高木克聡)