心臓移植を望む子供たちの待機期間の長期化が顕著だ。臓器提供者(ドナー)が不足する国内では、移植までのつなぎである補助人工心臓を数年間使い続ける患者や、移植にたどり着けずに亡くなるケースもある。移植できる日を病院で待ちわびる子供だけでなく、闘病生活を懸命に支える親たちにも人知れぬ葛藤がある。
埼玉県内の病院で心臓移植を待つ女児(4)が重度の心臓病と診断されたのは、生後間もなくのこと。医師からは未来をつなぐためには心臓移植しか道はないと告げられた。
女児は生後2カ月で補助人工心臓を装着。容体は徐々に上向き、人工呼吸器からの離脱を果たした。声かけには元気な表情を見せ、ミルクもよく飲むようになった。
安堵(あんど)の半面、感染症や脳梗塞などを発症するリスクと隣り合わせで、容体急変の恐怖が消えることはない。24時間慎重な管理が必要となり、県内に暮らす母親(40)は、娘の病室で寝泊まりする生活を始めた。
女児が自由に動けるのは半径2メートルほど。医療スタッフらの支えもあり、ハイハイやつかまり立ちなどは主にベッド上で身につけてきた。最近は語彙も増え、指人形を持ちながら、ごっこ遊びなどを楽しむ姿がある。
補助人工心臓の装着期間は、欧米では数カ月が一般的。女児は装着3年目にチューブ交換のための開胸手術に臨んでおり、長期間装着を続けることへの不安は募る。
「一日一日が無事に過ぎていってほしい」。母は祈りとともに、娘の成長を見守っている。
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重い心臓病を抱え、福島県から埼玉県の病院に転院してきた男児(5)も今年、補助人工心臓を装着しての移植待機が5年目に入った。
自宅では祖父母、高校生の姉、小学生の兄と姉が帰りを待ち、テレビ電話で近況を報告し合うのが日課だ。母親(35)は病室に泊まり込み、サポートを続けてきた。
「のどが渇いた」「トイレに行きたい」「怖い夢を見た」…。簡易ベッドに体を横たえた後も、呼び声に笑顔で応える。3度の食事もコンビニで済ませることが多く、体調維持に難儀する。
母親は闘病生活を支える中、離婚と離職を経験。月2~3回ほどの帰宅時、残した子供たちの要望や学校の様子などに耳を傾け、後ろ髪を引かれながら病院に戻る。
自宅と病院を車で往復するのにかかるのは、高速代約1万2千円と燃料代。治療費と交通費の一部には行政支援があるが、2拠点生活の経済的負担は重い。仕事を始めるのも困難で、生活費は家族の支えで何とかやり繰りしている状況だ。
不安だらけの毎日。それでも、懸命に生きる息子の姿が眼前にある。移植がかない、家族のもとに戻れる日は必ず来る。「一緒に頑張っていく」。母親は静かにうなずき、前を向いた。
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日本臓器移植ネットワークによると、今年7月末時点で10代47人、10歳未満51人が心臓移植を希望するのに対し、昨年1年間に脳死下の臓器提供として行われた国内の心臓移植は10代2件、10歳未満7件。今年は8月6日時点で10代8件、10歳未満3件と増えているものの、移植希望者とドナーの釣り合いが取れない状況は続く。
一方、入院中の子供に付き添う親たちの過酷な実態も表面化している。
NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」が昨年、0~17歳の子供の入院に付き添い経験のある親ら約3600人から回答を得た調査では、付き添い中に、世話やケアに費やした時間は1日当たり「21~24時間」(25・5%)が最多で、夜間に世話や看護をした人は約9割を占めた。
主に院内のコンビニや売店で食事を済ませている人が約6割。多くが子供と同じベッドや簡易ベッドで寝ており、約8割が熟睡できなかったという。約7割が経済的不安を感じ、入院長期化で育児休暇や看護休暇などを使い果たし、退職に追い込まれる人も目立った。
付き添い入院の負担軽減を巡っては、こども家庭庁と厚生労働省が今年度、小児の医療機関の実態調査を行い、対策を検討する方針。同法人の光原ゆき理事長は環境整備に向け、「国にリーダーシップをとってもらいたい」と訴える。(三宅陽子)