他者から自分の持ち物や財産を奪われたとき、相手から奪い返そうとするだけはなく第三者に対しても「奪い取る」行動を起こす“負の連鎖”について調べた論文を、筑波大学と立正大学が発表した。筑波大の梅谷凌平氏(博士後期課程)、秋山英三教授、立正大の山本仁志教授らの研究チームによると、お金を奪われた人は、自分が受けた被害と同程度の被害を無関係の第三者に与えることがわかったという。
研究チームによると人間は他の生き物と比べて「とても協力的」であり、協力してくれた相手にお返しをする「直接互恵性」を持っている。また、おすそ分けのように、協力者ではない第三者に対してもポジティブな行動を示す「アップストリーム互恵性」もあるとされる。
これとは逆に、相手に傷つけられる、資源を奪われるなどの行動で損失を与えられたときには、お返しの代わりに報復が行われる。しかし、自分に損失を与えた相手に直接報復できない場合、第三者に対して、おすそ分けに相当するネガティブな行動をするかどうかについて、定量的な分析は行われていなかった。
そこで研究チームは、実際にお金を奪われたときの行動を調べるオンライン実験を実施。参加者をA、B、Cの三つのグループに分けて全員に100円ずつ与えるというシチュエーションを設定した。
実は、人間の参加者はBのグループだけで、それ以外はコンピュータープログラムだった。梅谷によると、Bグループの参加者たちはAグループとCグループにも自分たちと同じように人間の参加者がいると認識して実験に臨んだ。全容を知らされたのは実験終了後だったという。
実験では、まずAグループが“略奪者”となりBグループからお金を奪った。奪う金額は100円、または50円で、まったく奪わないケースもあった。また、奪う金額はAグループが自分で決めた、もしくは、くじ引きで強制的に決められたという情報がBグループに知らされた。
続いて、今度はBグループが“略奪者“の役になり、Aグループとは関係のない“第三者”であるCグループからお金を奪った。奪う金額は0~100円で、Bグループが10円単位で自由に決めた。
研究チームは、最終的にCグループの手元に残ったお金を指標にしてBグループの437人の行動を解析。BグループがCグループから奪う金額はBグループがAグループから奪われた金額と同程度だったことを突き止めた。また、Aグループが自分で奪う金額を決めたかどうかは、Bグループの行動に影響を与えていなかった。
結果を受けて研究チームは、奪い取るというネガティブな行動は、その行動が意図的だったかどうかに関係なく、奪われた量と同程度で第三者に連鎖すると結論づけた。同時に、起点となるネガティブな行動がなければ“負の連鎖”が生じない可能性を指摘している。