トラウマ体験と異なる状況でも「恐怖」 別の疾患の治療薬活用、PTSD改善に期待

実際にトラウマ(心的外傷)を受けた状況と異なる環境で恐怖や不安がよみがえってしまう現象「恐怖記憶の汎化」について、特定の脳細胞の減少が影響していることが分かったとする論文を九州大学が発表した。この細胞は既存の薬で増やすことができるため、研究成果がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状改善につながると期待される。

PTSDについては米国のベトナム帰還兵の治療を機に認知が広がり、1980年に米国精神医学会が診断基準を定めたが、メカニズムには不明な点が多い。現在は、安全と安心を保証した上で段階的に過去の記憶などに触れるエクスポージャー療法が有効だとされているが、同治療法は恐怖記憶の汎化を抑えることで効果を発揮すると考えられるという。

(提供:九州大学 神野尚三教授)
(提供:九州大学 神野尚三教授)

(提供:九州大学 神野尚三教授)

同大大学院医学研究院の山田純講師と神野尚三教授らの研究チームは、恐怖記憶の汎化に着目して実験を実施。まず、床がワイヤーグリッドで壁が四角形のケージにマウスを入れて電気ショックを与えた。すると同じ形状のケージに入れられたときに、電気ショックを与えなくても「すくみ反応」(行動停止)や失禁といった恐怖反応を示すようになった。

床が平面で壁が三角形のケージに入れられたときは、マウスは恐怖反応を示さなかった。2種類のケージはよく似ていたが、マウスは電気ショックを受けた状況とは異なると認識したため恐怖の記憶が刺激されなかったと考えられる。

次に、非常に強い電気ショックをマウスに与えて同じ様に実験をした。すると今度は、形状が異なるケージに入れられた場合でも恐怖反応を示すようになったことから、研究チームは恐怖記憶の汎化が起きたと確認した。

恐怖記憶の汎化を示したマウスの脳を調べると、記憶にかかわる海馬において、オリゴデンドロサイトというグリア細胞(神経細胞以外で神経系の維持に関与する細胞)が減少していることがわかった。この影響によりオリゴデンドロサイトが形成する物質、ミエリンの機能が低下することも発見された。

ミエリンには脳の制御に関わる抑制性ニューロンを保護して情報伝達を促進する役割がある。研究チームはオリゴデンドロサイトの減少が連鎖的に恐怖記憶の汎化を引き起こしている可能性を示唆。パーキンソン病の治療薬でオリゴデンドロサイト増やす作用が報告されているベンズトロピンの投与をするなどしてミエリンの機能を回復させると、マウスが健常な状態に戻るとした。

同様の手法は人間に対しても有効である可能性がある。研究チームは、既存の治療薬を別の疾患に使うドラッグリポジショニングがPTSDの薬物療法の開発につながると期待感を示した。

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