近ごろ都に流行るもの

日本の〝羊食〟が深化 柔らかさとコク 希少な国産「ホゲット」堪能

厚真町産ホゲットの煮込み(左手前)と、名物のラムチョップ=東京都台東区の「シノバズブルワリー ひつじあいす」(重松明子撮影)
厚真町産ホゲットの煮込み(左手前)と、名物のラムチョップ=東京都台東区の「シノバズブルワリー ひつじあいす」(重松明子撮影)

「くさい」「かたい」と不人気だった羊肉の誤解が解かれ、日本にも定着してきた。99%を輸入に頼っているが、国内でも約2万頭が飼養され(農林水産省畜産局)希少肉として注目されている。東京・上野の羊肉レストラン「シノバズブルワリー ひつじあいす」では、子羊「ラム」と成羊「マトン」の中間、1歳の国産「ホゲット」を提供し、〝羊食(ようしょく)〟の深化を象徴する存在となっている。また、愛好家団体が運営する「羊フェスタ」も過去最大動員を記録するなど、偏見のない若者が羊肉人気を盛り上げているという。

ダイエットに良し、宗教的忌避なし

北海道厚真町産、ホゲットの煮込み(2640円、クスクス添え)。分厚い肉にナイフを入れるとホロリと崩れた。臭みはなく、しっとりした身から羊のコクと香りが口から鼻に抜け、スパイシーかつまろやかなスープと溶け合った。

「ラムの柔らかさとマトンのうまみのいいとこどり。飼料にカボチャや米を使い、ストレスをかけないよう大切に育てられている。だからこその味だと思う」と、同店を展開する長岡商事社長の前川弘美さん(60)。「昨年の出荷はわずか3頭、出荷しない年もある」。厚真町の山田忠男さん(78)が育てるホゲットである。前川さんは度々足を運び、地元以外で初めて卸してもらうことができた。

羊肉は生後12カ月未満の子羊「ラム」の市場人気が高く、飼養期間も短いため生産効率が良いが、山田さんがホゲットになるまで手塩にかけるのは「子羊で手放すなんてできない」という情からだ。一頭一頭に名前を付けて育てている。

今回はホゲットの部位別食べ比べもメニュー化。店内醸造のクラフトビールとの相性がたまらない。肉がなくなり次第終了で、6月末頃までと予想される。

店のある上野2丁目仲町通りは不忍池と鈴本演芸場に挟まれた地域。夜はキャバクラの呼び込みが騒がしいが、歴史ある飲食街だ。

昭和30年代から前川さんの父親が純喫茶や居酒屋などを手広く経営。だが、平成16年に開いた豪華テーマレストランで多額の損失を被った。編集者だった前川さんが家業に入り同21年、好物のニュージーランド産ラムを名物にした「下町バル ながおか屋」を開店。特製タレに漬けたラムチョップが年間25万本以上(ピーク時の平成30年)売れる起死回生の大ヒットとなり、令和3年末、バルの並びに「ひつじあいす」を開店した。

羊に助けられた前川さんは「新たな羊の魅力を、上野下町から発信していく」と力を込めた。

昨年11月、東京・中野で開かれた「羊フェスタ」は、2日間で過去最高の約4万5千人を動員。12の飲食ブースには1時間待ちの行列もできた。「来場者の6割が30代以下。先入観のない若者が、マニアックから一般化への流れを作っている」。主催団体「羊齧(ひつじかじり)協会」首席、菊池一弘さん(44)が語った。

自家醸造ビールを羊柄の升で提供する前川弘美社長。長年の羊食のためかスリムで若々しい=東京都台東区の「シノバズブルワリー ひつじあいす」(重松明子撮影)

平成24年、消費者である愛好家たちで発足し会員は現在約2500人。ニュージーランド、オーストラリア、英国、米国など輸出国の大使館や食肉団体と連携し、年に1度フェスタを開いてきた。

「昭和の冷凍マトン(主に羊毛生産後の廃羊)、平成前期の狂牛病騒動に乗じて乱立した質の悪いジンギスカンの印象を引きずる人が多いことが残念でした」。岩手県出身で遠野名物ジンギスカンを食べて育ち、北京外語大学在学中に羊肉中華料理に親しんだ。

帰国した平成14年当時、東京で羊肉を扱う店は高級フレンチなどを除きほぼなかった。「羊がまずいと思っているのは日本人だけ」。偏見への「怒り」が活動の原動力になった。現在は大手スーパーに並び、ファミレスのメニューにも登場、人気の「ガチ中華」でもおなじみの肉である。

また、羊は牛豚鶏の肉と比べてダイエットに有効とされる「L-カルニチン」が豊富で、宗教的忌避がないためインバウンド需要も高い。フワフワの姿よろしく羊が時流に乗っている。(重松明子)

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