超がつく日本屈指の名門ゴルフコース、廣野ゴルフ倶楽部に一度だけ行ったことがある。自宅から兵庫・三木市にあるコースまでは車で40分ほど。距離は近いが、縁遠いコース。自分がプレーできるはずもない。2015年の「日本アマ」の取材だった。
36ホールのマッチプレーで行われた決勝に進んだのは、広島国際学院高2年の17歳と、埼玉・大利根中3年の15歳。どちらかが勝っても史上最年少優勝だった。試合は9ホールを残して早々に決着。高2の金谷拓実が10&9の大差で中3の中島啓太を破り、第100回大会の節目を飾るチャンピオンとなった。
その2人が先日の男子ツアー「ミズノオープン」で優勝争いを演じた。金谷は2019年の「三井住友VISA太平洋マスターズ」、中島は21年「パナソニックオープン」でともにアマチュア優勝を果たし、優勝した翌年にそれぞれプロに転向した。金谷は18年、中島は21年に「アジア太平洋アマ」を制し、その翌年の「マスターズ」と「全英オープン」の出場権を獲得した。アマチュア世界ランキング1位に輝いた経歴も同じ。金谷が同じ東北福祉大の先輩、松山英樹のキャリアをトレースしてきたように、金谷のあとを追いかけるように日体大出身の中島も実績を残してきた。
「ミズノオープン」の第3ラウンド(R)後に中島がこんなことを言っていた。「正直言って、金谷さんに追われる優勝争いが一番苦手です。それだけ勝負強い選手だと思っています」。中島が首位に3打差の3位、金谷が2打差の2位だった状況。そのあとに「まだ僕は追いかける立場だし、上には(首位の)安森選手もいる」とは話していたが、プロ初優勝を狙っていた中島は、アマ時代から立ちはだかってきた金谷を最大の脅威に感じていた。同時に、大会史上2番目の大敗を喫した「日本アマ」の苦い記憶が、まだ刷り込まれているのかなとも思った。
今回と同じく、最終日最終組で戦った21年の「東建ホームメイトカップ」は、金谷に1打届かず2位に終わった。金谷が優勝した18年「アジア太平洋アマ」でも最終日の終盤まで首位に並んだ優勝争いを演じ、2打差の2位。2学年上の先輩はなかなか超えられない大きな壁だった。
中島の昨秋のプロ転向後、初めて実現した2人の優勝争いで、中島は同い年の平田憲聖とのプレーオフに敗れて2位、金谷は1打差でプレーオフに進めずに3位に終わった。痛み分けともいえる結末だったが、出場権を獲得した7月の「全英オープン」での続編に期待したい。まだ幼かった「日本アマ」から8年。たくましく成長した2人の名勝負を、〝自力〟では絶対に行くことのできない廣野GCでも、いつの日かまた見てみたい。(臼杵孝志)