サウジアラビア西部ジッダでアラブ連盟(22カ国・地域)の首脳会議が開かれた19日、1人の男性の一挙一動に大きな注目が集まった。約12年ぶりに参加資格を回復したシリアのアサド大統領だ。出迎えたサウジの実力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と抱き合って和解をアピールした。
アサド政権は2011年に起きた反政府デモを武力弾圧し、アラブ連盟の資格を停止された。シリアはこの後、今も続く内戦に突入し、内戦で反体制派を支援したサウジがアサド政権の〝復権〟に尽力したとされる。敵味方が目まぐるしく入れ替わる中東政治の複雑ぶりを印象付けた。
アサド氏は議場での演説で、米国が連盟復帰に重ねて反対の意向を表明していたことを踏まえ、「歴史的な機会だ」と述べた。反体制派の弾圧のため、20回以上も化学兵器を使用した疑いがある札付きの独裁者だ。米国が反対するのは当然だろう。
サウジは3月、中国の仲介で宿敵イランと約7年ぶりに外交関係を正常化することで合意した。以来、米国の意に反する形で独自外交を進めている。アサド氏はその恩恵に浴し、アラブとの関係改善にこぎ着けた。議場では硬い表情だったが、内心ではほくそ笑んでいたに違いない。中東は一段と先が読めない情勢になった。(佐藤貴生)