大阪市には近年、外資系の巨大ホテルチェーンの最上級ブランドが相次ぎ進出している。
米ヒルトンが平成29年に開業した「コンラッド大阪」(北区)。狙ったのは、急増していたインバウンド(訪日外国人客)だ。地上約200メートルの40階からは市街、さらには遠くに連なる山々も一望できる。
米マリオット・インターナショナルが令和3年にオープンした「W Osaka」(中央区)は、新型コロナウイルス禍で、まず国内の富裕層やビジネス客をターゲットとした。デザインを監修したのは建築家の安藤忠雄だ。
強敵がひしめく中、リーガロイヤルホテル(リーガ大阪、北区)の強みは、最大約2千人まで収容できる大宴会場や各種レストランをそろえる点だ。しかし客室などの老朽化が足かせとなり、客を奪われてきた。
7年の大阪・関西万博開催に向けてもオープンが相次ぐ。同年の開業を予定する「ウォルドーフ・アストリア大阪」(北区)や「パティーナ大阪」(中央区)は、宴会場を設ける高級ホテルとなる計画。リーガ大阪の強みに踏み込み、正面からぶつかることになる。
だが、リーガ大阪の買収に踏み切った米投資ファンド、ベントール・グリーンオーク(BGO)には〝勝算〟がある。
BGO関係者は「東京の高級ホテルにはないクラシカルな雰囲気を持ち、サービスや快適性も十分。大規模な設備投資をすれば海外の富裕層を集められる」とみる。買収には、新設では得られない〝格〟や、大阪の富裕層がホテルに持つ親近感、ノスタルジーを一挙に手にできる利点がある。
交渉に先立ち、BGO関係者はひそかに宿泊して価値や課題を見極めていた。後で知った運営会社ロイヤルホテルの社長、蔭山秀一は「かなり研究している」とうなることになる。
BGOは全1039室をリニューアルして老朽化したイメージを一新したい考えだ。ロイヤルホテル幹部は「アプローチできていなかった欧米などの富裕層を増やせる」と期待する。
重要なのは、BGOのホテル運営との絶妙な距離感だ。BGOはロイヤルホテルの筆頭株主となったが保有比率は約33・0%。株主総会で重要事項の決議を単独で否決できる「3分の1超」を下回り、経営の裁量はロイヤルホテルに残る。
従業員の雇用も維持する。業界に詳しいライターは「経営に外資が入れば人事評価が変わり、英語が話せるというだけで評価されることもある」とし、不安に感じる従業員が出てくると指摘。動揺を抑えるため、蔭山は従業員と直接対話する場を設けてきた。
また、BGO幹部は「リーガ大阪は短期で売り買いする物件ではなく、中長期で投資するスタンスだ」とも語る。収益性ばかり追うのでなく、「大阪の人が納得するような」(蔭山)ホテルの価値を守ることが売却交渉で〝約束〟された。
だが、外資系ファンドを「日本を土足で踏み荒らすやつら」(不動産大手の元幹部)と忌避する向きも少なくない。セブン&アイ・ホールディングスが開いた25日の株主総会では「物言う株主」の米ファンドが井阪隆一社長の退任を求め委任状争奪戦を展開した。
投資物件の価値が上がれば即座に売却して稼ぐのがファンドの本質。BGOの日本法人をかつて担当した金融関係者は「彼らは初め年利3、4%を目標にしていても、最後は30~40%を求めるぐらいアグレッシブ(攻めの姿勢が強い)なファンドであることを忘れない方がいい」と忠告する。
ロイヤルホテルの社長は今年6月、三井住友銀行出身の蔭山から、生え抜きの現・代表取締役常務執行役員、植田文一へ交代する。ライバルとの激戦を勝ち抜き、生き残れるのか。不透明な要素を抱えたまま、新生・リーガロイヤルホテルは船出した。(敬称略)
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この連載は井上浩平、田村慶子、黒川信雄が担当しました。