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極限状況で見た人間の顔 「赤帯の話」梅崎春生[中央公論新社編『教科書名短篇-人間の情景』より](中公文庫)

産経ニュース

このシリーズは中学の国語教科書から選ばれた文学作品をテーマ別に掲載している。梅崎春生という懐かしい作家の名を目にしたのが読み始めるきっかけだった。

以前に梅崎の「桜島」を読んでいた。戦時中の暗号員としての体験をもとにした代表作だが、「赤帯の話」は初めて知った。最初は柔道の話かと勘違いしたが戦後のシベリア抑留、収容所の日々を描いた短編だ。ここで最近見た映画『ラーゲリより愛を込めて』にもつながった。

「赤帯の話」では極寒の収容所での日本兵の姿が一人称で描かれている。主人公はイワノフという名前のソ連兵。服の上にいつも赤い帯をしめていたので「赤帯」と呼ばれていた。

「年の頃は四十歳ぐらいの、寡黙な男」で「つめたい感じの男ではなかった」。「私」たちを監督するカマンジール(親方)だった。

「腹が減るだろうが、がまんしてやってくれ」と赤帯は言った。薄いカーシャ(粥)やスープ、黒パンの日々は空腹との闘いだ。しかし赤帯も同じく粗末な弁当だとわかる。几帳面で時に故郷の歌を歌う赤帯はソ連の作業兵。どうやらシベリア流刑囚ではないかという噂が広まった。

あるとき赤帯はいつもとは違う場所へ私たちを連れて行った。そこで大きく切った鮭の切り身と黒パンを出して「これを分けて、みんなで食べろ!」と言った。そして励ました。赤帯はその日を最後に他の収容所へ転属していく。

その後、もう一度会った赤帯は「西へ帰る」と語る。どこか快活そうで、一緒に相撲をとった。内地に戻った私は「あの時食べた鮭ほどに美味な鮭」を食べたことはないと物語は結ばれる。

私は高校で国語教師をしているのでこの小説が気になった。極限状況の中で見た人間の顔と生きる希望。中学生はどう感じてくれるだろう。

京都市右京区 佐々木清次(67)

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