採用面でも手応えが大きかった。ストアマネージャーの中には「髪色が自由になったため応募した」と声をかけられた人がいたほか、美容系の学校に通っている専門学生から「以前は髪色の規定があるので働くのをあきらめていた」と声をかけられた人もいたという。
「予想以上に、ドレスコードの改定が働くきっかけのひとつとなっている」と担当者は話す。
さらに、利用客から髪色の変化を褒めてもらうなど、コミュニケーションのきっかけになるシーンも増えた。パートナー同士のコミュニケーションが増えたと感じるストアマネージャーは72%に上り、「働いている中で、より相手を知るひとつのツールとなっている」「褒め合うコミュニケーションも生まれるし、認め合うコミュニケーションが活発になった」という回答が寄せられた。
人材確保の上でも優位に
昨今、従業員の多様な個性を認めようと、従来の服装ルールを見直す動きが広がっている。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が運営する「ドン・キホーテ」は22年3月、店舗従業員の髪色の自由化を認めた。これに続く形で、同年11月にはスーパー「アピタ」「ピアゴ」を展開するグループ会社のユニーも、髪色の自由化に踏み切った。現在、同グループでは管理部門にも同様のルールを適用している。
服装ルールの緩和や見直しは、従業員のモチベーション向上を促す効果が期待されるほか、「社員の個性を尊重する企業」として外部から評価され、人材確保の上でも優位に立てる。人手不足が深刻化する日本の労働市場においては、効果的な施策とみられている。
「NO FILTER」に込める思い
スターバックスでは、ドレスコードの改定だけでなく、LGBTQ+などのマイノリティー支援にも注力する。17年1月に「同性パートナーシップ登録」制度を導入。申請のあった同性カップルに対し、登録した同性パートナーを「結婚に相当する関係」「配偶者と同等」とみなし、慶弔見舞などの特別休暇、育児や介護休職、転勤などに伴うサポートや支援を実施。このほか「性別適合手術のための特別休暇」制度も同時期に導入している。
多様な個性を認め合う取り組みは、職場の中だけでなく社外にも広げている。20年からは、若者のLGBTQ+理解を促進し、安心・安全な学校環境をつくることを目的に、認定NPO法人ReBit(リビット)と共同で全国の中学校や高校で出張授業をする「レインボー学校プロジェクト」を始めた。
これまでに、同社のLGBTQ+当事者の従業員や、当事者を支援する「アライ」メンバーら44人が参加し、自身の体験を生徒に伝えている。授業を受けた生徒や保護者、教育関係者は1万1000人に上る。
同社は、互いに受け入れ合う社会を目指し、「NO FILTER」(ノーフィルター)というメッセージを掲げる。「コーヒーをいれるのには“フィルター”が必要だけれど、人の心には“フィルター”をかけてはいけない」――との思いを込めている。
「1人1人が自分らしく生きられる居場所を作れるよう、これからもさまざまな取り組みを通じて共感の輪を広げていきたい」と担当者は話している。