「今こそ、われわれのリスクマネー(リスクを辞さない投資資金)がお役に立てる局面でしょう。ホテルの価値を上げるための提案をさせてもらいたい」
令和3年秋、「大阪の迎賓館」と称されるリーガロイヤルホテル(リーガ大阪、大阪市北区)の会議室。運営するロイヤルホテル社長、蔭山秀一を前に、米国の投資ファンド、ベントール・グリーンオーク(BGO)幹部が切り出した。
BGOがリーガ大阪を買収し、大規模な改装や戦略的な投資を進める-。
金額などの詳細な条件こそ示さなかったものの、提案されたのは、こんなスキームだった。
BGO側との正式な顔合わせは初めて。その場には、今年6月にロイヤルホテルの次期社長に就任することが決まっている現・代表取締役常務執行役員の植田文一や、話を取り持ったロイヤルホテルのメインバンク、三井住友銀行の関係者も同席していた。
BGOが外資系ということもあり、警戒していた蔭山。しかし、「同じ船に」という言葉とともに示された提案には魅力を感じ、前向きになる。三井住友銀の関係者は「売却益で借金を返すことができ、財務内容も改善されるスキーム。投資にも注力できるものだった」と振り返る。
BGOの日本での不動産投資の実績の豊富さも、ただの〝よそ者〟でないという安心感を与えた。
米欧の年金基金などを顧客とするBGOは、音楽・映像事業のエイベックスの東京・南青山の旧本社ビルといったオフィスビルなどの買収実績を重ね、その数は累計約100件、約6千億円規模にも達していた。 リーガ大阪が大阪の有力企業の出資で「新大阪ホテル」として誕生したのは昭和10年。「大阪にも近代的なホテルが必要」との地元政財界からの待望論を受けた。
戦火を乗り越え、40年にホテルの建物(現・ウエストウイング)を新設したのを機に「大阪ロイヤルホテル」に改称。48年にタワーの宿泊棟を増築し、現在の威容となった。
だが、時を経て豪華な施設も老朽化していく。「1千室超という規模があだとなり、古びた施設の改修まで行きつかなかった。ライバルのホテルと比べて集客に苦戦し、新型コロナウイルス禍に沈んでいた」(アナリスト)
コロナ禍の直撃を受けたロイヤルホテルは宿泊や宴会の需要が消え、財政難にあえいでいた。令和3年3月期連結決算は最終損失が93億円と、5年ぶりの赤字に転落している。
実はリーガ大阪に関しては、それまでも不動産会社やファンドから建て替えや売却の打診があった。しかし、多額の改装費用がハードルとなり、具体的な協議には至っていなかった。
ただ、蔭山は、BGOの提案ならハードルをクリアできるとみた。
「BGOがリーガ大阪の土地と建物を約500億円で買い取り、約135億円かけ建物を全面改装する」「リーガ大阪の名前は変えず、改装後も現在の形で運営」「世界最大級のホテル運営会社インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)と提携し、会員の富裕層を送り込む」
蔭山の前向きな姿勢を受け、担当者は毎週のように話し合いを重ねるようになり、最終的に次の形に落ち着く。
売却で資産を失うロイヤルホテルは運営受託に特化する-。加えて、BGOが国内で投資を計画しているホテルについて、一部の運営を優先受託できることも約束された。
蔭山がとりわけ期待するのは、IHGとの提携で、海外からの集客力が飛躍的に高まることだ。
「目前に2025年大阪・関西万博があり、失敗が許されない。IHGはものすごい勢いで富裕層を送り込んでくる。こちらも必死でお客さんを受け入れないといけない」。蔭山はこう語った上で覚悟を口にする。
「私たちは一蓮托生(いちれんたくしょう)だ」
(敬称略)
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衝撃が走った1月20日のリーガロイヤルホテルの売却発表から約4カ月。5月12日には、ロイヤルホテルの社長交代が発表された。リーガ大阪が国内勢ではなく外資へ売却された舞台裏や、どう変わっていくのかを2回にわたり検証する。