重要な文書や絵画などを保護する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に「智証大師円珍(ちしょうだいしえんちん)関係文書典籍-日本・中国の文化交流史-」(円珍文書)の登録が決まったことを受け、所有する園城寺(おんじょうじ)(三井寺、大津市)の福家俊彦長吏(ふけしゅんげん・ちょうり)が25日会見し、「先人たちが命がけで後世に伝えてきた文書が世界に認められた。大変名誉なことと喜んでいる」と話した。
平安時代の天台宗の僧、円珍(814~891年)は遣唐使として唐に留学。帰国後、第5代天台座主として園城寺を再興した。
今回、世界の記憶に登録が決まったのは56件で、いずれも国宝。園城寺と東京国立博物館が所有する。
この円珍文書には、円珍が唐から持ち帰った経典や仏画のほか、当時大帝国だった唐の制度を伝える文書の原本などが含まれる。
中でも唐の役所から発給された通行許可証「過所(かしょ)」は、唐代の書式例を完全な形で伝える世界で唯一現存する一次史料。出願者や従者の身分、姓名、年齢、携行品、旅行の目的や理由などが記されている。
福家長吏は会見で「源平の合戦や南北朝の動乱などの争乱の兵火を乗り越え、1100年、ずっと守られたことは奇跡的」と意義を強調。「登録を契機に、智証大師(円珍)が伝えた仏教の精神に触れていただき、その価値を世界に発信していくことが、先人の功績に報いることになる」と話した。
寺は25日から文化財収蔵庫で、過所など今回登録される文化財の一部の特別公開を始めた。唐から帰国した円珍が、伝法の証明書発行を朝廷に願い出た自筆の文書などが含まれる。特別公開は7月2日まで。
7月4~30日には、大津市歴史博物館でも、ミニ企画展「三井寺の唐時代のパスポート」として文化財の一部が公開される。
円珍文書は、パリで開催されたユネスコの執行委員会で24日、世界の記憶への登録が決定した。平安時代に、密教の教えを唐から日本に持ち込んだ円珍ゆかりの文書として、その価値が高く評価された。