住友商事グローバルリサーチ・シニアアナリストの足立正彦氏は24日、米債務上限引き上げ問題に関し、国益棚上げの与野党対決は米国の弱体化を招くと強調した。主な内容は以下の通り。
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昨秋の米中間選挙の下院議員選で野党・共和党が勝利し、下院で「ねじれ」が発生した時点で、債務上限引き上げ問題を巡る与野党対決は予想できた。オバマ政権当時も中間選挙後にねじれが発生し、債務上限問題に取り組んだのが副大統領のバイデン氏だった。
下院共和党ではトランプ前大統領の影響を受けた歳出削減を求める超保守派が増大。下院議長選挙でもマッカーシー氏を突き上げ15回も投票が繰り返された。
共和党はバイデン政権が重視する再生可能エネルギー施策への税額控除廃止・縮小や、低所得者向けの医療保険制度適用厳格化を要求する一方、バイデン氏は石油企業や富裕層への増税を求め、対決している。
バイデン氏は再出馬を表明し、共和党もトランプ氏とフロリダ州のデサンティス知事を軸に大統領候補指名争いが展開される「政治の季節」となっていることも対決を助長している。
バイデン氏は広島を訪問したが、一時はオンライン参加を示唆し、訪日時に協議の一部欠席を強いられた。米国の国益を損なう形で米現職大統領として初となるはずであったパプアニューギニア訪問中止も余儀なくされた。
一方、昨年4月に中国はソロモン諸島と安全保障協定を締結し、太平洋島嶼(とうしょ)国への影響力増大を着々と図っている。バイデン氏が豪州訪問も中止したことで、彼が提唱した米主導の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」への米国の取り組みにアジア諸国から懐疑的見方をされている。米国の国益を棚上げにした与野党対決は米国を弱体化させかねない。