軍出身のプラユット首相下で14日に投開票されたタイ総選挙(下院選)は、軍の影響力排除などを主張する野党「前進党」が第1党になった。プラユット氏率いる与党は大敗した。
前進党のピタ党首が22日記者会見し、他の7党と連立合意し、共通政策に関する覚書を結んだと発表した。
ただし、8党の合計議席数は下院過半数の313だが、首相選出に必要な上下両院の376議席に達していない。今後、プラユット政権に近い上院議員の切り崩しが必要になるが、8党連立政権が実現するのか不透明だ。
重要なのは、民意が反映された政権が発足し、政治の安定がもたらされることである。多くの日本企業が拠点を置くタイの安定化は、地域の発展にも資する。
タイでは今世紀に2度も軍事クーデターが起きた。2014年のクーデターで実権を握ったプラユット氏のもとで19年に民政移管したが、言論統制など親軍勢力による強権政治が続いた。若者らを中心とする反政府デモが相次ぎ、社会は混乱した。
親軍的な議員や政党も今回の選挙結果を踏まえ、連立政権樹立に協力してもらいたい。
前進党が公約していた王室への不敬罪の改正は8党の覚書には含まれなかった。第2党の「タイ貢献党」など複数の党が消極的だったためだ。ピタ氏は「党として改正に引き続き取り組む」と説明したが、先送りした形だ。
国民の敬愛を集め、政治混乱に介入して「調停者」の役割も果たしたプミポン前国王と異なり、現国王は、海外を拠点とした派手な私生活などが原因で、国民の間から批判が出ることもあった。
不敬罪の改正論議はこうした背景から出たとみられるが、現国王ら王室メンバーが批判を受け止め、ふるまいを自重することで、また違う意見も出てこよう。
選挙に基づく新政権が誕生すれば、タイの外交政策の変化も期待できる。プラユット政権はミャンマー国軍に融和的で、東南アジア諸国連合(ASEAN)の足並みの乱れを招いていた。冷却化していた欧米との関係も修復に向かうだろう。
日本の皇室とタイ王室は長い交流がある。歴史的、経済的にも縁の深いタイの安定化につながる支援を日本は進めるべきである。