取り得る手をすべて尽くしたといえるのか。大阪府熊取町で平成15年5月20日、9歳の女の子が何者かに連れ去られたとみられる事件から20年が過ぎた。いまだ解決に至らないことを責める空気は社会やメディアにもない。それでも大阪府警には、犯人にたどり着けない捜査を虚心坦懐(きょしんたんかい)に省みてほしいのだ。
20年前、小学4年だった吉川友梨さん(29)が一緒に下校中だった同級生女児3人と別れ、自宅まで400メートルの路上で自転車の同級生男児とすれ違ったのを最後に消息を絶った。府警が最も可能性が高いとみていたのは、車による連れ去りだ。
ただ当時は現場周辺に防犯カメラは皆無に等しかった。今のように各地に設置された防犯カメラの映像から足取りを追えるわけではない。捜査範囲をどこまで広げるか。府警上層部の見立てに基づく判断が解決の成否を握っていた。
捜査に携わった元府警幹部の一人は「発生間もない段階から広範囲につぶす必要があったかもしれない」と語っている。
犯人の影すら見えない捜査に一筋の光明が差し込んだのは事件から10年後。当日、友梨さんの自宅付近に白い車が止まっていた-との目撃情報が寄せられた。これが後押しとなって車種も絞り込まれた。トヨタ「クラウン」130系とみられる。車には、中年の男と小学生ぐらいの女児が乗っていたという。
もっとも、目撃者が車内を見たのは一瞬。府警は男の似顔絵を作成して捜査しているが、今も公開はしていない。公開の障壁となっているのは似顔絵の信憑(しんぴょう)性だ。仮に似顔絵が男の容貌と違った場合、誤ったイメージが固定されてしまう。そんな懸念も踏まえた上層部の判断であろう。
「白の130系」として府警が実車を公開した30年、事件発生の15年と翌年に次ぐ357件の情報が集まった。公開を巡り、府警内部でも意見が割れたと聞く。車が処分されるリスクとのせめぎ合い。それでも公開に踏み切ったのは、情報提供に頼らなければ事態の進展が望みにくかったからだろう。
確かに似顔絵の公開にはリスクがつきまとう。が、有力な手掛かりがない現状で一考の余地もないのか。
他県警の長期未解決事件では、先入観を与えないため容疑者の似顔絵の目や鼻、口にモザイクを施して公開したケースもある。友梨さん事件を指揮した元捜査幹部は今、こう訴えるのだ。「1%でも(有力情報が寄せられる)可能性があるなら、似顔絵の公開にかけるべきだ」と。
5年前、友梨さん事件を担当する府警捜査1課が取材対象だった。幾多の場数を踏んだ猛者(もさ)が集う1課には事件以来、現場道路の小さな起伏まで足裏で覚えた刑事がいた。近くのアパートに住み込み、昼夜を問わず捜査に奔走する刑事の姿もあった。彼らは退職後も現場に通った。解決に導けなかった悔いゆえだ。
現場の刑事たちの執念を生かすも殺すも、リスクを背負う上層部の覚悟ではないか。「捜査に最善を尽くし絶対に解決する」。今月2日、現場付近を視察した府警の向山喜浩(むかいやま・よしひろ)本部長はそう語った。言葉だけでなく実践してほしい。まだやれることはある。
(社会部 矢田幸己)
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吉川友梨さん行方不明事件 大阪府熊取町七山(しちやま)で平成15年5月20日午後3時ごろ、当時小学4年の吉川友梨さんが社会見学からの下校中に行方が分からなくなった。大阪府警は友梨さんが何者かに連れ去られたとみて捜査。延べ約10万6千人の捜査員を投入、令和4年までに計5291件の情報が寄せられたが、有力な手掛かりは得られていない。情報提供は府警泉佐野署捜査本部(072・464・1234)、メール(yuri@police.pref.osaka.jp)。