日本人初の快挙だった。海や川など自然環境を舞台に行われるオープンウオータースイミング(OWS)で、今夏の世界選手権(7月、福岡)代表の南出大伸(木下グループ)が、4月に開催された全米選手権の5キロ部門で銀メダルを獲得。海を渡ってきたサムライの〝大番狂わせ〟に会場が大歓声に包まれた。
驚異的なラストスパートだった。序盤から先頭集団で周りの様子をうかがっていた南出は、5位前後だった残り200メートルでギアを上げてトップを猛追。前の選手との接触を巧みに避けながら追い抜くと、後方選手から足を引っ張られる妨害行為も振り払い、日本勢で史上初めて2位でゴール。12日に都内で行われた結果報告会で所属先から花束を贈られた27歳は「今後の自信になった。自分の強みを生かしきれたレースだった」とはにかんだ。
和歌山県海南市出身。海を眺めながら育った。もともと競泳の自由形長距離を専門としていたが、進学した日体大で強化のために取り組んだことをきっかけに、「水のマラソン」と呼ばれるこの競技にはまった。5キロ以上を泳ぐ体力や忍耐力を必要とすることはもちろん、自然を相手に天気や水温、水中生物の影響などを考えて泳がなければならない。考察好きでマイペースな自身の性格に向いていた。競泳では実力差のある選手にも勝つことができ、純粋に「楽しかった」。
そんな南出を指導するのは同じ海南市出身で、小学生時代から同じスイミングスクールに通う吉田龍平コーチ(28)だ。OWSと出合うきっかけとなった日体大に勧誘したのも、当時同大水泳部マネジャーだった吉田コーチだった。以来、自然な流れで南出を強化するようになり、OWSの指導法は海外レースなどの動画などを参考に独学で学んでいるという。
2人は「必ずしも(泳力が)速い選手が勝つ競技ではない」と口をそろえる。海や川を2時間近く泳ぐこの競技は、陸上競技のマラソンや競歩のように、勝負どころで給水ポイントがある。OWSの場合、コーチがさおの先端にドリンクをくくりつけて海の中にいる選手たちに手渡すのだが、まるで釣りざおのような「給水ざお」はそれぞれ担当コーチが手作りする。
吉田コーチも、選手が手に取りやすいようにと試行錯誤を重ね、ようやく見つけたのが百円均一ショップで売られている「みそこし」だったという。
さおの先端部分につけてドリンクホルダーとして使用しており、「サイズがぴったり」。さらに「南出の給水は(他の選手に比べて)スムーズ」とも。給水時にはコーチから現在の順位や戦略を伝えることも可能で、2人は息の合った連係を発揮している。
2年前に初出場した東京五輪は10キロで13位だった。今夏の世界選手権は8位入賞を目標に掲げる。「母国開催でもあるから、しっかりと注目していただけるように頑張りたい」と南出。吉田コーチは、多くの五輪選手を育てている競泳代表の藤森善弘コーチから助言を仰ぐことも多いといい、「まだまだ日本が強化を始めて浅い競技。ここの頑張りで日本のジュニアの意気込みも変わるので、その子たちのためにもまずは結果を出したい」と気合十分。来夏のパリ五輪を見据えて奮闘する2人に注目だ。(運動部 西沢綾里)