セブン&アイ・ホールディングスの株主総会が25日開かれるのを前に、井阪隆一社長らの退任を求めた米投資会社バリューアクト・キャピタルのパートナーで日本投資責任者、デイビッド・ロバート・ヘイル氏が産経新聞のインタビューに応じ、株主提案の成功に自信を示した。後任は暫定社長として創業家出身の伊藤順朗専務執行役員を推す考えも併せて明らかにした。
ヘイル氏は、井阪社長が事業の「選択と集中」に手間取り、従業員を含む多くのステークホルダー(利害関係者)が「不満と懸念を抱いている」と指摘。稼ぎ頭のコンビニ事業に経営資源を集中するよう求めた。
株主総会では、バリューアクトが井阪氏ら取締役4人の実質的な退任と、代わりに弁護士ら4人の選任を提案。セブン&アイ側は井阪氏らの続投を提案し、委任状争奪戦(プロキシファイト)が展開されている。(田辺裕晶)
デイビッド・ロバート・ヘイル氏との主な一問一答は以下の通り。
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--なぜ井阪隆一社長に退任を求めたのか
「バリューアクトの目標は、投資先企業の潜在能力を最大限引き出し、世界チャンピオンに変革する過程をサポートすることだ。セブン&アイは日本企業でありながら、素晴らしいブランドやフランチャイズを持ち、世界チャンピオンになれる。ところがガバナンス(組織統治)不全やリーダーシップの問題でその力が十分に発揮されない。最後の手段として株主提案の方法をとった。バリューアクトの歴史上、株主提案は今回2回目で、17年ぶりだ」
--具体的に何が問題になったのか
「実は数カ月前、あるセブン&アイのトップエグゼクティブがわれわれに対し『社外取締役には重要な戦略は決めさせられない。なぜなら彼らはわれわれのビジネスを知らないからだ』と言った。この発言が示唆する通り、執行側と独立した取締役との基本的な関係に問題がある。井阪社長らの退任を求める提案は、問題のあるリーダーシップに対処するためのものだ」
--井阪社長の経営手腕をどう評価しているか
「井阪社長は就任して7年だが、野心的に大きなことを達成したり、明確なプランを推進したりしたリーダーとは言えない。選択と集中に手間取り、従業員を含む多くのステークホルダーが会社の将来の方向性に不満と懸念を抱いている」
--バリューアクトが推薦した取締役候補と、現経営陣との違いは何か
「私たちが提案した社外取締役候補は、グローバルな経験、戦略的スキルを活用し、長期的な株主の声を反映して、既存の取締役会を強化するだろう。自己保身を図る社長とその支持者を解任することで、ガバナンスと株主を重視した権限を行使できるようになる」
--セブン&アイに何を求めているのか
「成功の方程式は集中的な投資と、経営資源の集中だ。コンビニ業界もスーパー業界も、競合の大半は一つの事業に集中している。オーナーシップの構造や経営が独立した上で特定分野で協力し合うことができれば、セブン-イレブンとイトーヨーカ堂の未来はより明るいものになると思う」
--セブン&アイの令和5年2月期決算は過去最高だった。評価に値しないか
「昨年は原油高や円安進行など事業に大きな影響を与えた外部要因があった。表面的には良い決算に見えるかもしれないが、客観的なレンズで見れば、業績は企業が持つ潜在能力に達しているとは到底いえない」
--株主総会で提案は実現すると考えているか
「成功する自信がある。著名な株主調査会社にセブン&アイの日本と海外双方の株主について調査を依頼した。歴史ある機関投資家や、何兆ドルという大きな資産を動かす投資家も含む。その結果、戦略的な問題や(井阪社長の)リーダーシップについて、意見の相違はほとんどなかった」
--提案が実現した場合の後任社長はどうなるのか
「慎重に候補者を決めるべきだ。世界の他の企業を見渡せば、暫定的な社長を置きながら、社内外で社長の候補者を十分に検討するというプロセスがうまく機能している例がある。バリューアクトとしては、暫定の社長として(専務執行役員の)伊藤順朗氏をサポートしたいと思っている」
--創業家に株主提案への賛成を働きかけているか
「株主の投票権は神聖なもので、それぞれの株主が決めることだ。私たちにできるのは事実を提示することで、全ての株主が適切な投票の仕方をしてくれると思う。21世紀フォックスのマードック一族や、トレンドマイクロのチェン一族など、企業の長期的な方向性を決める際、創業家が重要な役割を果たす場合があることもよく分かっている」
--株主提案が実現しなかった場合でも、セブン&アイの株式は保有するのか
「私たちは通常、主要な投資に対して長期的に保有する。『出口』を考える際は通常、投資先企業が変革を達成し、市場がそれを評価し、企業のリーダーシップとガバナンスに確信が持てるようになったときだ」
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