料理を創作することは、パズルを創ることに似ているのかもしれない。
将棋棋士は詰将棋と言われる将棋パズルを作る・解くことがあるのだが、私の場合、最後の完成形を先に思い浮かべ、そこに至るまでの手順を逆算して考えることが多い。
同じ様に、パズルや料理においてもどのピースが何処に当てはまるか、どの味がどう影響するか、最終的な結果を思い浮かべながら、あるいは未知の組み合わせに心を躍らせながら作業は完成へと向かっていくのだろう。
本日紹介する『メイン・ディッシュ』には二人の創作者が登場する。劇作家であり推理小説家も務める小杉隆一と、探偵役にして料理の達人である三津池修、通称「ミケさん」の二人である。
この二人に語り部である紅林ユリエ、通称「ねこさん」を加え、三人を主軸として劇団に関わる謎や過去の事件が語られることとなる。
複雑に絡み合う過去と現在の事件模様もさることながら、「ミケさん」の作る料理描写もミケさん流ブイヤベースや、伊府麺(イーフーメン)、玉ねぎと詰め物の揚げ物など豊富で、謎を解くための脳のみならず胃袋をも目覚めさせられてしまうこととなるだろう。
その中でも、謎と創作料理を両立させたような料理に興味が引かれる。フリッターのような形をして、匂いも味も無いけれど、揚げ立てを山椒塩と一緒に頂くと最高の舌あたりになると言う不思議な揚げ物である。その正体は作中でお楽しみあれ。
いつもの定番料理だけではなく、時には自分なりの創作料理を考えながら夜を過ごすのも楽しいのではないだろうか。(将棋棋士 糸谷哲郎八段)