人工多能性幹細胞(iPS細胞)から心臓の筋肉(心筋)細胞を作り、シート状に加工して重症の心不全患者に移植する世界初の治験を進めてきた大阪大などの研究チームは19日、全ての手術を完了し、安全性や有効性がみられたと発表した。今後は薬事申請し、1~1年半後の実用化を目指すとしている。
手術は令和2年1月から今年3月までに大阪大、順天堂大、九州大、東京女子医大で計8例を実施した。最終的な評価はこれからだが、現時点では8例全てで重篤な副作用や細胞のがん化がなく安全に推移し、7例で症状が改善するなど有効性がみられたという。当初は最大10例の手術を予定していたが、順調に進んだため8例で終了とした。
治験を指揮した澤芳樹・大阪大教授は記者会見で、「新型コロナもある中で、よく(こんなに早く)達成できたなと思う。スタッフの努力のおかげだ」と振り返り、今後については「1~1年半後に薬事承認を得て実用化し、世界の患者を元気にしたい」と語った。
また、会見には今年3月に東京女子医大で移植手術を受けた60代の女性患者も出席。「元気になった。悩んだが手術を受けてよかった。幸せだ」などと、現在の心境を語った。
治験対象となったのは、心臓の血管が詰まって心筋が壊死(えし)し、血液を送る力が衰える「虚血性心筋症」という重い心不全の患者。国内患者数は10万人程度で、症状が進行した場合の治療法は心臓移植となるが、臓器提供者は不足している。
治験では、京都大が作製し備蓄していたiPS細胞を心筋細胞に分化させ、直径約3・5センチ、厚さ約0・1ミリの円形のシート状に加工し、患者の心臓に3枚張り付けて移植した。移植した細胞数は患者1人当たり約1億個という。