病院の一室から世界の結核対策へ “動ける”X線撮影装置が変える一次医療

病院内で専用の検査室に納まっている、健康診断でも身近なあのX線撮影装置が、持ち運べるほどのサイズに軽量・小型化され、世界の結核医療に変革をもたらしている。このポータブルX線撮影システムを開発したのは、1983年に世界で初めてX線画像をデジタル化した画像診断システムを製品化した富士フイルム。機材一式をキャリアケース一つに収納し、開発途上国の郊外や山間部など車両でアクセスできないようなへき地にも徒歩で入り込み、すみずみにまで結核医療を行き渡らせている。国内でも在宅医療や救急医療の現場での需要が高まるなど、“自由”になったX線撮影装置が新たな医療の可能性を広げている。

開発途上国のへき地にある検診現場へと向かう現地のNGOスタッフ。背中のキャリーバッグにX線撮影システム一式が格納されている(富士フイルム提供)
開発途上国のへき地にある検診現場へと向かう現地のNGOスタッフ。背中のキャリーバッグにX線撮影システム一式が格納されている(富士フイルム提供)

国連推奨のX線撮影装置に

エイズ、マラリアと並んで世界三大疾病に位置付けられる結核。日本は2021年に「低まん延国」となったが、世界ではアフリカや東南アジアなどの開発途上国を中心に未だ結核がまん延しており、結核による年間死亡者数は世界で約150万人と、感染症としては新型コロナウイルスに次ぐ多さとなっている。しかし年間約1000万人といわれる感染者数のうち、約400万人が「未診断層」と半数近くの患者に医療が届いていないのが現状だという。

そうした患者の多くがそもそも検診の場にアクセスできないという物理的な問題が結核対策を阻む障壁となっていたが、その根幹となる部分に一石を投じたのが富士フイルムの携帯型X線撮影装置「CALNEO Xair」だった。

富士フイルムの携帯型X線撮影装置「CALNEO Xair」(左)と検出器のカセッテDR(撮影:後藤恭子)

「CALNEO Xair」は、独自に開発した高感度な検出器を使うことで、従来型の検出器の約4分の1に低減した線量でもクリアな撮像を実現。被ばく量を押し下げるだけでなく、重量約3.5キロと従来の携帯型X線撮影装置の2分の1にまで軽量化することに成功した。

胸部X線画像から結核の主な所見を検出し、診断をサポートするAI(人工知能)技術を活用しており、撮影したその場で解析結果を確認することができる。さらに開発途上国の郊外や山間部など、電力インフラが不安定な地域での使用を考えてバッテリーを内蔵式に。フル充電で1日最大100枚の撮影が可能だという。

(富士フイルム提供)

パキスタンやベトナムで行った実証プロジェクトの成果が評価され、2021年3月に世界保健機関(WHO)の結核検診のガイドラインに、従来の喀痰検査に加えて肺を検査する胸部X線撮影とAIサポートによるスクリーニングを推奨する内容が盛り込まれた。さらに同年9月には国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)と長期供給契約を締結。製品化以降、約60カ国に同装置を供給している。

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