中国北部に10世紀、モンゴル系の契丹人が遼という国を建てた。遼は漢人と契丹人をわけて統治し、互いの習俗が混じらないようにした。素朴な契丹人が文明に慣れ、勇猛果敢さが失われることを恐れたからだという。東洋史の泰斗、宮崎市定の著作にそうある
▶辺境の民族が中国に築く国家は必ず文明に感染して弱体化し、滅亡した。独自の文字を作るなど防御を張り巡らせた契丹人だったが、その帝国は一世紀有余で崩壊したという。砂糖でもアヘンでも甘美な習慣にはまると逃れられない。文明は人性(じんせい)の弱点に乗じて発達した、とは宮崎の至言である
▶衣食足りた人類にとっての「砂糖」は、情報ではないか。電車に乗ると誰もが動画やSNSに没入している。多くの人は適量をわきまえているが、チャットGPTなど対話型AIという魅惑的な甘味料が現れた。感染拡大で文明はさらに発達するだろう。その先にはいかなる事態が、待ち構えているのだろうか。