19日に開幕する先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、主会場の広島市以外にも各国の大使館や重要施設が集まる首都・東京も厳重な警備が敷かれる。4月には岸田文雄首相の近くに爆発物が投げ込まれる事件も発生し、現場の緊張感は高まるばかりだ。警備に当たる機動隊員らは本番に向けて厳しい訓練を積んでおり、指導担当者は「あらゆる事態を想像して準備する」と力を込める。(大渡美咲)
「冷静を保って臨機応変に」「兆しを見逃すな」
5月初旬、東京都立川市にある警視庁の警備訓練場で、サミットに関連した警備に当たる警察官らが訓練に励んでいた。広い訓練場の中で、マイクとメガホンを使い、指導に当たっていたのは、警視庁警備2課の尾谷哲央(のりお)警視(57)と川田博之警部(53)だ。訓練を受ける隊員の動作を厳しい目で逃さず一つ一つ確認し、過去の事例を挙げながら具体的な動き方をアドバイスしていった。
尾谷警視は機動隊や訓練の指導係を担当して18年、川田警部は16年と、2人とも警備現場を知り尽くしたベテランだ。川田警部は警備実施のスペシャリスト「警察庁指定広域技能指導官」でもある。
これまで、令和3年に開かれた東京五輪・パラリンピックや、昨年の日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」首脳会談、安倍晋三元首相の国葬など、大規模な警備が敷かれる際の機動隊員らの訓練指導に当たってきた。
長く警備に携わってきたからこそ、状況が刻一刻と変わる現場の怖さを知る。「5分前には何もない状況だったのに、急に人が膨れ上がったりする場合もある。何が起こるか分からないからこそ想像力を働かせて警備に就かないといけない」と尾谷警視は話す。
時代や社会情勢も大きく影響する。コロナ禍で開催された東京五輪は感染リスクや熱中症との戦いでもあった。当時は濃厚接触者も自宅待機となったため、感染が広がれば部隊を動かすことができなくなることから、訓練や警備も細心の注意が払われた。
「声を出すことができない、出してもマスクで声が聞こえづらい、距離や間隔を空けるなど、集団警備とは相反する中での警備は非常に難しかった」と尾谷警視は振り返る。
昨年7月には奈良市で選挙の応援演説中に安倍元首相が銃撃される事件が起き、今年4月には和歌山市で岸田首相の演説会場で爆発物が投げ込まれる事件が発生。韓国でも昨年、ソウル・梨泰院(イテウォン)でハロウィンに多くの人が集まり、身動きが取れなくなって150人以上が死亡する雑踏事故が起きた。想定外の事態が起こり得るのも警備の現場だ。
川田警部は「隊員には訓練のうちから具体的に現場をイメージしてもらい、どういう事態が起こり得るか、問題や危機意識を持ってもらうようにしている」と話す。訓練がどんな意味を持ち、どういう状況で必要になるのか。事細かに説明して指導することを心掛けているという。
開催が迫るG7広島サミットは、主会場が広島市とはいえ、東京も決して無関係ではない。2005年の英グレンイーグルズ・サミットでは、会場から約600キロ離れた首都ロンドンを狙ったテロが発生。空港や駅、繁華街など不特定多数の人が集まる「ソフトターゲット」と呼ばれる場所が標的になる恐れもある。
近年では単独でテロ行為に及ぶ「ローンオフェンダー」の脅威も増している。犯行の前兆がつかみにくいため、現場での迅速な判断が重要だ。
川田警部は「現場で警備に当たる機動隊員が訓練の意味を頭と体で理解し、自信を持って自然と動けるようになるまで何度も反復してもらう」とし、尾谷警視は「日本は世界で一番安全な国と言われている。強い機動隊を作り、安全を守るのが最大の使命」と語気を強めた。