新型コロナウイルスの感染症法上の分類が8日から5類に引き下げられることに伴い、全国の自治体が用意してきたパルスオキシメーターや配食用食糧などが民間へ無償で提供されている。感染拡大期には大量の備蓄が求められた物品ばかりだが、5類移行後は感染者への無料配布が終わる。いずれも使用期限や消費期限があり、担当者らは提供先が決まっていない備蓄品の譲渡先選定を急ぐ。(外崎晃彦)
東京都は43万台保有
容体が急変しやすい感染者の経過観察に使用されてきたパルスオキシメーター。各自治体は感染が拡大するたびに医療機関で対応しきれない軽症者に自宅療養を求め、保健所などが体調の変化を把握できるよう機器を貸与してきた。
「感染者の増加に合わせ、在庫も大きく増えていった」
東京都の担当者はパルスオキシメーターの確保に努めた日々をこう振り返る。現在、東京都の保有台数は43万台。数が膨れ上がったのは、「感染者がどのくらい増えるのかは見通しにくく、多めの確保が必要だった」(担当者)ためだ。
厚生労働省が機器の貸与を推奨する通達を出した令和3年当初、都は4万台を確保。その後、同年夏の感染拡大「第5波」、翌4年1月ごろからの「第6波」と流行の波は大きさを増し、都は計29万台を追加購入した。
機器は貸し出しから返却、消毒、再び貸し出すまでのサイクルが1台当たり約1カ月かかるという事情も。昨年夏の「第7波」では、都内で新規感染者が1日に4万人超を記録する日もあるなど需給が逼迫(ひっぱく)。「第8波」が訪れる今年1月までの間に、さらに10万台を購入した。
「少しでも早く」
今回の5類移行に伴い、都は5月7日申し込み分で貸与を終了。都の所有分として一部を残すほかは都医師会などを通し、都内の医療機関や高齢者施設に無償譲渡する。
機器の使用期限(耐用期間)はあと3~5年程度。担当者は「必要とする施設に早く届け、少しでも長く使っていただきたい」と話している。
パルスオキシメーターと同様、5類移行で役目を終えたのが、自宅療養者向けに確保してきた配食用の食糧だ。都はこれまで感染者にレトルトのごはん、総菜、みそ汁など5日分(15食分)をセットで提供してきた。こちらは早いもので数カ月以内に消費期限を迎えるものもあり、さらにスムーズな譲渡が求められている。
譲渡先は都内のフードバンクや子供食堂など。在庫は1月末時点で約37万食分あり、都は3月以降、在庫削減を進めてきたが、物流倉庫にはまだ段ボールが積まれているという。
「今後は各家庭で」
都以外の自治体も譲渡に奔走している。全国に先駆けて自宅療養者にパルスオキシメーターを配布し、厚労省通達でも「手本」とされた神奈川県では、これまでに計約12万8650台を購入。そのうち約9万4千台を県内の医療機関と高齢者施設に無償配布する。
計約1万5千台を保有する宮城県も、5千台を手元に残すほかは県内の医療機関などに無償提供する。約3万人分を常時ストックしてきた食糧については、昨年12月以降に新規購入を停止しており、在庫は順次、県内のフードバンクや福祉施設など引き取り先に無償提供していく予定だ。
ある行政担当者は「パルスオキシメーターや食糧の提供によって感染者の不安を少しでも軽減できたらという思いでやってきた」と振り返り、「行政の支援はなくなるが、感染拡大への備えは大切。今後は個々の家で備蓄をしっかりお願いしたい」と呼びかけた。
パルスオキシメーター
指先で血中酸素飽和度(SpO2)を測定する機器。コロナによる肺炎重症化の早期発見につながるとして、厚生労働省が令和3年1月に利用の推奨を通達。全国の各行政機関が国の助成金を受けるなどして購入し、自宅療養者や宿泊療養施設の利用者らに貸与してきた。測定値は96~99%が正常、93%以下は酸素投与が考慮されるレベルとされる。