大震災後の仙台。それまで働いていた水産加工会社が倒産し、わずかなお金でどうにか食いつないできた男。やがて困窮する家族のために犯罪に手を染めることになった男の守り神になったのは、偶然拾った痩せた犬だった…。
そんな短編「男と犬」をはじめ、主を失い、南へと向かって旅する一匹の聡明(そうめい)な犬と人間の絆を描いた7編からなる連作集。欠落感を抱えた人々を澄んだ目で見守り、その傷ついた心にやさしく寄り添う犬の姿が胸を打つ。
ノワール小説で一時代を築いた著者の新たな魅力を伝える令和2年上半期直木賞受賞作。(文春文庫・858円)