師弟関係にある2人がアーチで共演した。巨人は29日、広島5回戦(東京ドーム)に4-3で今季初のサヨナラ勝ちを飾り、2連勝で4位に浮上した。中田翔内野手(34)が1点を追う九回に6号2ランを放ち試合を決めた。弟分の秋広優人内野手(20)が放ったプロ初本塁打に発奮した兄貴分は、劇的な一発を含む3安打2打点の大暴れ。師匠の貫禄を示した。
燃えないわけがない。1点を追う九回2死一塁。打席に向かう直前、中田翔は秋広に告げた。「手本を見せてやるから見とけ」。有言実行の逆転サヨナラ2ランを放った大砲は、歓喜の水しぶきが舞う輪の中心で破顔一笑した。
「足が震えていたので余計なことを言ってしまったと思っていたけど、いい形になってよかった。秋広が打って自分が打たないわけにはいかない」
初球を完璧に仕留めた。甘く入った栗林のフォークボールを逃さず、左翼席上段へたたき込んだ。大型連休初日に詰めかけた観衆4万357人のどよめきで東京ドームが揺れる中、バットをほうり投げ、雄たけびを上げて走り出した。
重たい空気を吹き飛ばしたのは、弟分の秋広だった。チームは一回の先制後に拙攻が続き、七回にリードを2点に広げられた。直後の攻撃で売り出し中の20歳がプロ初アーチとなるソロ。記念球を秋広に手渡した頼れる兄貴分は「追い上げムードに火が付いた。素晴らしいホームランだった」と目を細めた。
2人は特別な関係にある。オフに2年連続で合同自主トレを行い、同じ釜の飯を食べ、ひたすらバットを振った。一日12合の白米をほおばって体づくりに励んだ秋広の食費は中田翔が負担。ボールを引き付けて内側をたたき、打球に角度を付ける「縦振り」をともに磨いた。
中田翔は前日に原監督から助言を仰ぎ、タイミングの取り方を修正。通算294本塁打を放ってなお貪欲な姿勢こそが、巨人の未来を担うホープが手本とするところだ。師弟の活躍でチームは4位に浮上。「秋広が新しい風を吹かせてくれている。秋広にご褒美? たかが1本。甘いです」。殊勲の34歳は、弟分と上がったお立ち台で誰よりもうれしそうに笑った。(鈴木智紘)