駅近アパートは過激派の非公然アジトだった-。警視庁公安部は4月、過激派「革労協主流派」の非公然アジトと非公然活動家を摘発した。国内過激派によるテロやゲリラは減少傾向が続いているものの、現在もテロやゲリラを担う非公然組織を有し、不穏な活動を続けている。過去に国内で開催されたサミットでも過激派がゲリラ活動を展開しており、5月に先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を控え、警察当局は警戒を強めている。
アパートの一室に居住
公安部は4月、警察への提出書類に偽名を記したとして、有印私文書偽造・同行使の疑いで革労協主流派の非公然活動家の男(46)を逮捕。男が住んでいた非公然アジトのアパート一室や革労協主流派の拠点「現代社」(東京都杉並区)など、関係先数カ所を家宅捜索した。
主流派のアジト摘発は革労協が主流派と反主流派に分裂した平成11年以降で初めてで、全国の極左組織の中でも令和で初だという。
革労協主流派は非公然活動家を「革命軍」として組織化。成田闘争に積極的に取り組み、成田空港飛翔(ひしょう)弾発射事件など、過去のテロやゲリラ事件に関与したとされる。
男が非公然アジトとしていたアパートは、東京都日野市の京王線南平駅から約100メートルの場所にある住宅と飲食店が混在するエリアの一角。アジトの階下にもスナックがあり、夜になっても人通りは絶えない。2階建てで数十年前からあるという。
関係者によると、男が住んでいた2階の1室は和室2部屋と台所、風呂兼トイレがあるという。捜査関係者によると、ほかにも複数人の出入りを確認しているという。
近所の住人は、「(男は)10年以上前から住んでいるが、近くの住人と言葉を交わすことはなく、いつも帽子をかぶっていた。最近は見かけないから引っ越したのかと思っていた」と話す。
サミットを標的
革労協主流派は機関紙に「広島サミット粉砕」と明記していた。大規模な国際会議は、主張や存在をアピールする格好の機会として、過去のサミットでも過激派によるテロやゲリラの「標的」となってきた。
昭和61年、東京で開催されたサミットでは、過激派「中核派」が迎賓館を狙い迫撃弾を発射。迫撃弾は歓迎式典が行われていた同館を飛び越えて路上に落下したが、人的被害はなかった。平成12年の沖縄サミットでも、「沖縄サミット爆砕」などと主張していた革労協反主流派が横田基地へ金属弾を発射した。
20年の北海道洞爺湖サミットでは会場周辺で街宣活動が行われた一方、都内でも国内過激派が大規模な動員をかけて抗議活動を繰り広げ、警察官を暴行した活動家が逮捕された。
28年の伊勢志摩サミットでは、革労協反主流派による首都圏での「ゲリラ計画」が発覚。サミットに合わせて標的の候補となる施設を下見するなどし、発射準備を本格化していたことが判明した。
弱体化も警戒弱めず
警察当局による徹底した摘発や、内部抗争などによる疲弊から、国内過激派によるテロやゲリラは大きく減少している。捜査関係者によると、革労協の規模は、主流派、反主流派含めて約400人程度。
とくに近年では、国家が背景にいるとみられるサイバー攻撃や組織に属さず単独でテロ行為に及ぶ犯罪者「ローンオフェンダー」などの新たな治安の脅威も出現。ただ、警視庁幹部は「(過激派などの)既存の脅威への警戒を弱めることはない」と強調する。
過去に凄惨(せいさん)な内ゲバを繰り返し、国際会議を狙ったゲリラを企ててきた過激派組織。いまだにテロやゲリラを実行する非公然部隊を有し、体制の立て直しに向けて組織を温存、潜在化しているとの見方もある。
警視庁幹部は「主張の違う相手を排除し、目的のためには手段を選ばない組織。違法行為を取り締まり、組織実態を解明していく」としている。
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革労協 正式名称は、革命的労働者協会。昭和44年10月、日本社会党の青年組織「日本社会主義青年同盟(社青同)」の一部が独立して結成。内部で主導権争いや闘争路線をめぐる対立を繰り返し、平成11年5月には、裁判闘争をめぐる内部対立から、主流派と反主流派に分裂。14件もの内ゲバを繰り返し、主流派、反主流派ともに各5人の死者を出している。