救急搬送されても、受け入れ病院が見つからず適切な治療が受けられない─。そんなコロナ禍で起きたような医療の混乱が心疾患患者の爆発的増加によって起きる可能性を、医療現場では「心不全パンデミック」と呼び危機感を募らせている。「団塊の世代」が後期高齢者となる2025年を目前に警戒が高まっているが、高齢化が深刻な地方ではすでに始まっている地域もあるという。感染症と違って予期し得るパンデミックに巻き込まれないために、患者世代、あるいはハイリスクな高齢者をもつ家族にいまからできる「備え」はあるのか。東京医科大学循環器内科学講座の里見和浩主任教授に話を伺った。
「現状を放置すれば深刻化は避けられない」
「心不全」とは心臓に何らかの異常があり、心臓のポンプ機能が低下して臓器に血液を十分に送り出せなくなった状態のこと。一概に心不全と言ってもその原因となる疾患は様々で、動脈硬化や血栓で心臓の血管が狭くなり、心臓に酸素・栄養が行き渡らなくなる虚血性心疾患、動脈硬化、高血圧症、弁膜症、心筋症、不整脈などがある。
心不全の発症率は加齢とともに増加し、米国の研究では50歳代での発症率が1%であるのに対し、80歳以上では10%になることが報告されている。超高齢社会を迎えた日本では心不全の患者数は2020年時点で推計120万人を超え、がんに次いで死因の第2位となっている。
いわゆる団塊の世代が75~80歳へと突入する2025~30年には入院治療が必要な高齢の心不全患者が病院に押し寄せる事態が懸念されており、医療現場ではその爆発的な患者増加の様子を感染症の流行に例えて「心不全パンデミック」と呼んで警戒を強めている。
一方で里見教授によると、「地方によってはすでに(心不全パンデミックが)始まっている地域もある」という。東京医科大学病院でも昨年、循環器内科の年間入院患者数が過去最高となったそうで、「現状を放置すれば、今後都市部を中心に問題が深刻化することは避けられない」と危機感を募らせる。