日本最大の歓楽街、新宿・歌舞伎町にほど近い新宿区立大久保公園(東京都新宿区)の周辺は夕方ごろから異様な雰囲気に包まれる。買春目的で女性を見定める男性と、客を待つ女性。「立ちんぼ」「街娼」といわれてきたが、そこに最近は遠巻きに動画撮影する配信者や、観光地に来るかのように冷やかし目的で訪れる人々も加わっている。さまざまな犯罪の温床ともなっており、警視庁は公園周辺の治安悪化に危機感を抱き、取り締まりを強化している。
客待ち女と声かけ男
「いくら?」「何歳?」「待ち合わせ?」「俺でも大丈夫?」「いろいろ見てからまた来るね」
25日午後9時前、大久保公園の周辺で、女性に声をかける男性らの姿があった。20人以上いる女性らは、一様にスマートフォンを片手に、時間をつぶしている様子で、待ち合わせをしているように見える。男性らは品定めするような視線を向けながら女性の前を通り、声をかける。
声を潜めて女性に話しかける男性。女性側も「意外に安くて、相手に任せてるんです」「1万5千円」と値段交渉に応じたり、「19歳」と口にしたりする。
相手にされず、苦笑しながら立ち去る男性もいた。「金に困ってるわけではないが、客を選べないから風俗では働きたくない」。客待ちをする女性はこう本音を漏らす。
摘発数は増加傾向に
こうした光景に警視庁も危機感を抱く。保安課によると、平成30年~昨年の過去5年間で、警視庁が摘発した街娼は計240人。そのうち、8割以上の計201人が、大久保公園周辺だという。
年間40~50人で推移していた摘発人数は新型コロナウイルスの影響で、令和2年には20人台に減少したものの、一昨年、昨年はそれぞれ34人、51人に。増加傾向が続いている。今年に入りすでに18人を摘発。4月だけで10人を摘発している。女性らが売春する目的の多くがホストクラブへの支払いだったという。
警視庁は取り締まり強化するが街娼や男性らの数は減る様子はない。
今月25日も夕方から警戒を始めた警視庁の捜査員が、大久保公園近くで、売春目的で客待ちをしたとして、売春防止法違反容疑で20代の女を現行犯逮捕した。捜査員に取り囲まれた女は慌てたように周囲を見回す。女性捜査員が優しく語りかけるようにして、女を落ち着かせ、捜査車両に乗せた。
売春・買春は売春防止法により禁じられ、売春の教唆、あっせん、勧誘は摘発対象となる。客待ちをし売春の勧誘をしている街娼は同法違反で摘発されるが、買春する側の男性客は、女性が18歳未満の未成年である場合を除き、罰則がなく摘発されない。
冷やかしも増加
公園周辺では、スマートフォンのカメラを辺りに向け、撮影機材を持って歩く動画配信者も多くいた。配信を見て冷やかし目的で訪れる人も増えている。配信で大久保公園の状況が知れ渡り、SNSなどでは大久保公園を「立ちんぼ公園」、客待ち女性を「交縁女子」、物色する男性を「買春おじさん」などと呼んで広がっている。
捜査関係者によると、配信者はここ1、2年で増えたといい、配信者と女性との間のトラブルも耳にするという。
公園近くで女性たちを見ながら談笑する男性2人組。会社の元同僚で、ともに30代だという。「社会科見学のつもりできた。こんな世界があるんだと思った」と話す。男性は「試しに女性に話しかけてみたら、返事をしてくれて感動した。観光地に来たようで楽しい。面白過ぎて1時間半も歩いている」と興奮気味に語っていた。
こうした現状に、捜査関係者は「買春する男性に加え、動画配信者や第三者の冷やかしなど、輪をかけて公園周辺に人が増えている。問題意識を強く持っている」と話す。
その上で、「街娼は再犯も多いことから、取り締まりに加え、女性を自治体の福祉につなげるなど、立ち直り支援も行うことが重要だ。すぐに問題解決とはならないが、地道な活動を続ける」と語った。(塔野岡剛)